Live Report
シナリオアート “15th Anniversary One-man Tour – 15th sketch –” @渋谷WWW
2024.08.02
今年で結成15周年を迎えたシナリオアート。そのシナリオアートが、6月に発売した7枚目のミニアルバム『sensitive sketch』を引っ提げて全国ワンマンツアーを敢行した。
北は北海道、南は九州まで、まさしく全国を行脚したツアー。そのファイナルが7月24日に東京の『渋谷WWW』で行われた。
大変ありがたいことに、バンドにとっての大きな節目となるツアーの最終公演へご招待して頂いた。今回はそのライブのレポートをお送りする。
しんどくなったら、1回休んだりしても良いしね
オープニングナンバーは『シーユーネバーランド』。
新しい環境へと進む人間の喜びと不安。自分が何もせずとも移り変わる時代に対する焦りと期待。
多くの人が持つであろう相反する感情を優しく包み込むミディアムバラードだ。
変化を恐れることは悪いことではない。悪いことではないが、その弱さを受け入れて次の一歩を踏み出す必要がある。そのときに、一緒に歩んでくれる人が隣にいるということがどれだけ心強いか。
15年という軌跡の中で、シナリオアートにも多くの変化があった。その度に、同じ方向に歩くメンバー同士が、いや、同じ方向を向くことができないときでも、支え合っていたのではないだろうか。そんな想像が頭をよぎる。
そして今、ファンにとってはシナリオアートこそがそういう存在になっているのだろう。
” 最後までいっぱい曲やるんで、戦いですよ、これはもう。
ああ、でも、しんどくなったら1回休んだりしても良いしね”
これは、2曲目の『ホワイトレインコートマン』が始まる前にハヤシから出た言葉だ。
なんてことのない言葉ではあるが、この短い言葉でここまで自分たちの世界観や価値観を表現できるのかと感動した。
シナリオアートの曲は人の弱い部分を表現した曲が多い。どんな人の心にも弱い部分がある。人は弱いのだ。それを理解した上で、それを受け入れて、立ち上がる必要がある場面はたくさんある。現実で戦わなければ、人は現代社会で生きていくことができない。
だが、休んでも良いのだ。しんどいだけでは人はすぐ壊れてしまう。人は弱いのだから。
シナリオアートの楽曲は、そういうことに気づかせてくれる。
もしくは、気づいていても休めない人に休む勇気をくれる。”休んでも良いんだよ”と隣に座ってくれる。
世界の終わりまで、君と歩いていたい
3曲目『シニカルデトックス』と4曲目『ブルースメル』が続く。
『ブルースメル』は筆者が個人的に好きな曲だ。終末感のある独特の世界を、アップテンポなロックサウンドでまとめ上げた作品。
とてつもなく大きな事件によって日常が終わりそう。そんな状況にも関わらず、作中の2人は最後まで日常を送る。
ハットリの透き通る声と、ハヤシの優しく包み込む声でシュールな歌詞の掛け合いが行われる。
大人になってからの苦悩と、子供だった頃の能天気さが同時に呼び起こされる。
世界が終わるとき、自分はどこで誰と何をしているんだろう。
目の前に挫折や絶望が姿を現したとき、気の置けない相手となんてことない話をしながら日常を送れたら、それはきっと幸せなことだろう。
緩急ではなく静と動
” 明日が来るって絶対誰にも保証されてないから、
今日はシナリオアートができる最大をやって帰りたいと思います “
ハヤシとハットリによる当日の雷雨に関する”アホみたいな”掛け合いののち、ハヤシは言った。
人間誰しもが明日を保証してもらえずに生きている。これは個人の生死だけではない。15年という長い期間をバンドとして活動をしているシナリオアートだが、明日もシナリオアートが活動している保証はどこにもないのだ。
だからこそ、今日は今日の最高をやるのだろう。ファンも今日の最高を楽しむ。今日は最高だったと感じられる、次は次の最高を楽しむ。常に最高を更新し続ける。ライブの醍醐味だろう。
短いMCの後に続いた曲は『エバーシック』。個人的にかなりシナリオアートらしいと感じている曲だ。
辛い思いを抱えた人間、心に弱さを抱えた人間、そういった人間の不安定な感情を飾らずに綴った歌詞。電子音なども使ったややアップテンポ気味な楽曲。
緩急のある曲というより、静と動と呼べるくらい強いメリハリのある作品だと感じる。
聴いているうちに心を揺らされ、そのときに広がった隙間に音を流し込まれる感覚がある。胸がざわつくのだが、いつの間にか安心している。この曲を聴いていると、そういった感覚を覚える。
思い出したくないことや、気づきたくないこと。そういうものを目の前に置かれるが、不思議と不快感はない。道端の小石のように、そこにあるのが当たり前なものとして受け入れさせてくれる。
歌詞が、楽曲が、ボーカルの声が、そう思わせてくれる。シナリオアートを聴いていると実感させてくれる1曲だ。
いい感じの夏
続く『ハイティーン』と『ウォーキングムーン』でもシナリオアートらしさを存分に堪能させてもらったところで、次にシナリオアートが披露したのは『イマジナリーサマー』。『sensitive sketch』から先行配信もされたリードトラックだ。
複雑なものが多い印象があるシナリオアートの楽曲としては、かなりシンプルな曲だ。
非常に夏らしく仕上がっているのだが、良い意味であまり華がない。明るく爽やかに聞こえるが、明るく爽やかという表現が当てはまるのか分からない。
パリッとした青空というより、少しノスタルジックというか、見たことがあるかどうかもわからない「あの頃の夏」というような印象のサマーソングだ。
すごくシンプルな味付けで、不思議と何度も聴きたくなってしまう。ちょうど良い。
こういう曲をしっかりと聴かせてくれる。その完成度も15年という積み重ねがあってのものなのだろう。
ここは、東京
9曲目は東京公演限定曲となる『トウキョウメランコリー』。都会における孤独さ、都会で生きることの憂鬱さ。そういったしんどさが綴られた曲だ。
北海道の田舎町から上京してきた筆者としては、とてつもなく郷愁に駆られる。
自分ひとりがどうなったって、何も変わらない、誰も気にしない。もちろん、そうじゃないというのは頭ではわかっているが、そう思わされてしまう魔力がこの街には存在する。
故郷にいた頃はあれほどうざいと感じていた周囲からの干渉も、どこか懐かしいと感じてしまう。
今、故郷に戻ったら自分はどう感じるのだろう。
やはりまた都会に出たくなるのだろうか。
孤独や寂しさと同じくらい、夢と希望があるのではないか。
滋賀出身のシナリオアートは東京をどう感じているのだろう。
ファンの中にも同じ境遇の人はいるのだろうか。
東京で生まれ育った人たちはどうなのだろう。
色々な考えが浮かんでは溶けていく。この曲を生で聴いたのは初めてだったが、自然と涙が零れそうになった。
今の想いを詰め込んだ、大切な曲
” この15年という、今の思いを詰め込んだ、大切な曲、やります “
ハットリの言葉に続いたのは『リンドン』。その言葉の通り、これまでのシナリオアート、今のシナリオアート、そしてこれからのシナリオアートが短めの歌詞にすべて詰まっているように感じた。
自分なりに色々と感じたことはあるのだが、この曲に関しては外野が長々とそれを語るのも野暮なように思えた。
まだ聴いたことのない方がいれば、ぜひ自分の耳で、目で、この曲を味わってもらいたい。
15年の中で起こった喧嘩エピソードの暴露なども交え、その後も多くの曲が披露される。
『ネムレヌイヌ』、『メトロノームタワー』はそれぞれ曲の雰囲気や世界観がまったく違うのだが、どちらも「シナリオアートっぽい曲だ」と感じさせてくれる。
『センシティブガール』ではハヤシが音程迷子になるというまさかの事件が発生。これもライブの醍醐味か。
メンバーにもファンにも「コウスケさんだし、まったく仕方ないなあ」というような空気が漂う。こうして暖かい目で見守ってしまうのも、シナリオアートが作り上げてきたものだろうか。ハヤシ個人の特性のような気もしてきた。いずれにせよ、15年で積み上げてきたある種の信頼関係であることは間違いないだろう。
14曲目『ジンギスカンフー』では観客も一緒に体を動かして楽しんでいた。
違った今があったのかなって思ったりすることはある
” 長い事やってると、いろんな選択を迫られてですね。
あのときこういう選択をしていれば、
後悔はしていないですけど、違った今があったのかなって思ったりすることはある “
『サヨナラムーンタウン』、『ナナヒツジ』が続いたあと、ハヤシが静かに語りだす。
” 自分たち、一緒に進んでるチームとかメンバーとか周りにいてくれる方々、
支えてくれている皆様、今ここに居てくれるみんな。
多分、違う選択をしていたらここで出会ってなかったような気がしていて。
すごく幸せな空間だなって感じるからこそ、これで全部良かったのかなって思えてます “
15年。
15年という長い期間、何かを続けるというのは大変なことだ。個人の趣味だってそんなに続かないものが大半だろう。それを、シナリオアートというチームで続けてきた。
メンバー構成は同じではないし、同じ環境でもない。それでも、15年もの間、シナリオアートとしてやってきた。これはとんでもないことだ。
多くの選択肢、葛藤があっただろう。今よりも輝かしい”今”があったかもしれない。それでも、今がすごく幸せで、今が良いのだと。ハヤシは言った。
ともすれば刹那主義的にも聞こえるが、そうではないだろう。過去も未来も、たくさん考えた上で、考え抜いた結論が「今が幸せだから良い」なのだ。
不安、葛藤、孤独感、人間が持つ弱さを考えて、全部を受け入れた上で「それでも大丈夫だよ」と寄り添ってくれる。そんな、シナリオアートらしい意味での「今が幸せ」なのだと感じた。
諦めることすら諦めた
続く曲は『アカネイロフィフティーン』。15周年のシナリオアートに相応しいタイトルと内容の楽曲だ。
15歳の情熱を、15歳の感受性を、忘れずに生きていられるだろうか。15歳の自分が今の自分を見たらどう思うだろう。15歳の自分に会えたら、今の自分は何をしてあげられるだろう。
ずっと同じではいられない。それはわかっている。わかっているからこそ、それでも無くしたくない気持ちがある。そして、無くしていないことに気付くことができる。
シナリオアートも、15年間何も変わっていないわけではないだろう。良い変化も、もしかしたら悪い変化もあったかもしれない。
それでも今のメンバーで、今のファンと、今の形を作ってきた。
変わらないことは無理だ。忘れないこともできない。でも、変わらないものを持つことも、忘れたくないという気持ちを大切にすることもできる。忘れたくないから、また行動に移す。忘れたくないから残す。そのための手段が、シナリオアートにとっては音楽活動なのかもしれない。
その後は『テンダーランド』を歌い上げ、18曲という大ボリュームのセットリストを完遂してステージを降りた。
まだまだ、もっと挑戦とかしたい
アンコールを求める手拍子に応えてステージに戻ったシナリオアートから大きな発表があった。
来る10月24日、渋谷クラブクアトロでのワンマンライブ。発表と同時に、会場から大きな歓声が起こる。
メジャーデビュー、会社を辞めたこと、独立したこと、コロナ禍。色々なことがある中で、バンドはギリギリの状態で続いていると語るハットリ。
そういう中で大きな節目を迎えられた。それでもまだ、挑戦がしたい。その挑戦のひとつが、キャリア初となる渋谷クラブクアトロでのワンマンだ。
15年という長い期間を活動してなお、挑戦をするという姿勢を崩さない。そういう姿に勇気づけられる。
ぜひ、その挑戦を成功させてほしい。成功させたい、そう思える魅力がシナリオアートにはある。
今回のツアーに参加できなかった人たちにもぜひとも参加してもらいたい。時間もお金も、無駄になることはない。行ったことを後悔することが絶対にない公演になると言い切れる。
アンコール曲である『アオイコドク』を歌い上げて再びステージを降りたシナリオアートだったが、アンコールを求める手拍子が鳴り止まない。
まさかのダブルアンコールが急遽決まり、三度ステージに上がったシナリオアートが『スペイシー』を歌い上げ、全国ツアーは幕を閉じた。
シナリオアートの現在地と、新しい挑戦
2024年2⽉25⽇に結成15周年を迎えたシナリオアート。
本日のツアーファイナルの中で、結成15周年を記念したワンマン公演「[Chapter #27] – 15th in QUATTRO -」が10月24日(木)に渋谷クラブクアトロにて開催されることが発表された。
▼公演情報
[Chapter #27] – 15th in QUATTRO –
2024年10⽉24⽇(⽊) 渋⾕クラブクアトロ
OPEN 18:00 START 19:00
通常チケット︓¥4,500(+1drink)
学割チケット︓¥1,500(+1drink)
※当⽇⾝分証明書をご提⽰ください
<先⾏チケット受付期間>
7⽉24⽇(⽔)21:00〜8⽉4⽇(⽇)23:59
https://eplus.jp/scenarioart-1024/
シナリオアート Official Site
15th Anniversary One-man Tour – 15th sketch – 東京公演 セットリスト
01 シーユーネバーランド
02 ホワイトレインコートマン
03 シニカルデトックス
04 ブルースメル
MC
05 エバーシック
06 ハイティーン
07 ウォーキングムーン
08 イマジナリーサマー
09 トウキョウメランコリー ※東京公演限定曲
10 リンドン
MC
11 ネムレヌイヌ
12 メトロノームタワー
13 センシティブガール
14 ジンギスカンフー
15 サヨナラムーンタウン
16 ナナヒツジ
MC
17 アカネイロフィフティーン
18 テンダーランド
EN アオイコドク
EN2 スペイシー