ライブレポート

ORCALAND “HERO IS COMING”@新代田FEVER

2024.05.02

撮影 : 若奈 (@wakaa_02)

4月26日、ORCALANDによるライブ『HERO IS COMING』が東京のライブハウス『新代田FEVER』で開催された。

今年2月14日にリリースされたORCALANDの2ndミニアルバム『HERO’S HIGH』を引っ提げての全国ツアーが、3月22日に千葉『千葉LOOK』から出発した。宮城から福岡まで全国7会場を行脚したツアー、その千秋楽である。

先日、当サイトでORCALANDを取材させてもらった縁でこのライブに招待して頂いた。以下はそのライブレポートとなる。

当サイトで掲載されたORCALANDの特集記事をまだ読んでいない方は、ぜひ一読してからライブレポートを読んで欲しい。

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下北発「ORCALAND」!ライブを中心に活動する「誰1人置いていかないロックバンド」の素顔に迫る!

シナリオアート

ゲストバンドの『シナリオアート』がトップバッターを務める。

今年で結成から15年を迎えるスリーピースバンド。女性ドラムス・ボーカルと男性ギター・ボーカル、男性ベース・コーラスという珍しい構成のバンドだ。舞台への楽曲提供やTVアニメとのタイアップなど、数多くの実績を持つ。

聴いていて心地の良い”不安感”

幻想的なSEをバックにメンバーがステージに上がる。そのままイントロに移行し、ドラムスの良く通る声がフロアに響く。彼らの時間が始まった。

撮影 : 若奈 (@wakaa_02)

オープニングナンバーは『テンダーランド』。エレクトロニックサウンドを駆使した美しい楽曲。だが、それだけではない”影”も感じる。

続く『サヨナラムーンタウン』と『ブルースメル』は一聴するとオーソドックスなロックナンバー。しかし、ここでも何か”影”のようなものを感じる。楽曲の進行によるものなのか、リズムの外し方によるものなのか、それとも歌詞から読み取れる終末感によるものなのか、それは分からない。とにかく、”上手く言葉にできない不安感”が自分の胸に芽生えているのを感じる。

聴いていて不安な気持ちになるが、まったく不快ではない。むしろ、もっと聴いていたいと感じる。幻想的で綺麗な楽曲の中に作り込まれた”不安定さ”。その”不安定さ”に身を委ねていると、フッとどこかへ落ちてしまいそうな感覚に包まれる。その度に、まっすぐ響くツインボーカルに、力強いドラムスに、芯のあるベースに、落ちそうな身体を後ろから支えられているような錯覚を起こす。

「救われてばっかの人生」

撮影 : 若奈 (@wakaa_02)

“誰かを救うことがあまりなくて、救われてばっかの人生なんですけど。だからそういう曲ばっか多いです

“俺達は誰かを救うとかじゃなくて、同じ弱い者同士で寄り添えたら良いな”

MCでハヤシはそう語った。

きっと、これがシナリオアートの楽曲を聴いたときに感じた”不安と安心”の正体なのだろう。

颯爽と現れるステレオタイプなヒーロー像ではない。バンドメンバーの弱さを表現した楽曲と、聴く者の弱さが共鳴する。

それは一見するとたしかに”弱いもの同士で寄り添っている”だけかもしれない。問題を解決してくれるわけでも、誰にも負けない力を与えてくれるわけでもない。それでも、寄り添って欲しい・寄り添いたいと思ったときに”そこに居てくれる”彼らは間違いなくヒーローだと思う。

「足りない僕らはなんとか生きてる」

“ORCALANDね、救ってくれそうやな、あいつら”

そう語り『エバーシック』と『アダハダエイリアン』を続けて披露した。どちらも弱い人間の少し歪んだ心情を描いた曲だと感じる。心が折れたり、絶望したり、それでも生きることを諦めたくない。非常に人間らしい泥臭さが綴られている。

撮影 : 若奈 (@wakaa_02)

“ヒーロー見つけたわ。こことここ”

二度目のMCでそう語ったハヤシも、それを受けたハットリもヤマシタも、全員が照れくさそうに茶化す。

茶化してはいるが、これは本音なのだろう。メンバー全員がきっとそれを理解している。こうして互いが互いの救いになっているのだ。

その後は『アカネイロフィフティーン』を歌い上げ、最初のヒーローはステージを降りた。

New Mini Album発売&全国ワンマンツアー

そのシナリオアート、6月19日に7枚目のニューアルバムの発売が、7月6日からは全国ワンマンツアーが決定している。

ツアーファイナルは7月24日に東京『渋谷WWW』での公演となる。

チケットの販売期間やアルバムの予約特典など、詳細はシナリオアートの公式サイトをチェックして欲しい。

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New Mini Album発売&全国ワンマンツアー開催決定!

Mercy Woodpecker

二番手を務めるのは、2016年に結成した熊本出身のロックバンド『Mercy Woodpecker』だ。

現在も九州を中心としながら、東京、名古屋、大阪など全国各地で精力的にライブ活動を行っている4人組バンド。

この日は前後に遠征予定がない中、盟友のツアーファイナルを成功に導くために熊本から駆けつけた。

撮影 : 若奈 (@wakaa_02)

「羽は無いけど飛べる」

1曲目は『トビウオ』。どうにもならない不条理に、どうしようもなく”正しい”世界に、自分の中で燻る何かを、どうして良いのか分からない。そんなやるせなさと、それでも立ち向かう勇気を綴ったような王道ロックナンバーだ。

続く『新世界』と『ストロボデイズ』。心地よいロックサウンドに、”大人”になっていくことへの葛藤を描いた詞が乗って会場を包み込む。

どの曲からも反骨精神が読み取れる。まさに”ロック”な楽曲ばかりだ。

撮影 : 若奈 (@wakaa_02)

現代における”ロック”の答えの一つ

マシペカの楽曲からは90年代ロックのにおいがする。

90年代と言えば、日本では空前のロックバンドブームの真っ只中。30年以上続いた平成が終わり、令和も6年となった今でも活躍しているアーティストも多い。

比較的最近デビューしているメジャーアーティストでも「影響を受けたバンドは80年代、90年代に活動していた人たちです」なんて話もざらだ。

有名・無名を問わず数多のバンドが生まれては消えていった時代。日本における”ロックバンド”の形は、90年代である程度の完成を見せてしまっていたように思う。

エレキギターとドラムを前面に出した疾走感のあるサウンドに、まっすぐな歌詞を乗せる。もちろん反骨精神を添えて、だ。それも、たっぷりと。

そうして聴く者を鼓舞する。「もっと強く」、「負けないように」、「一人でも生きていけるように」、と。それが90年代までの”ロック”だったし、筆者にとっての”ロック”でもある。

さて、そんな90年代ロックのにおいを濃く纏うマシペカだが、90年代ロックとは違う点がある。歌詞だ。

先ほども書いたように、90年代までのロックと言えば、聴く者を「立ち上がらせる」ものが多かった。不条理に立ち向かう勇気も、負けずに生きていく強かさも、個人の内面に見出すものが多い。(もちろん、それに対する”寂しさ”や”やるせなさ”のようなものを歌った曲もあるが)

だが、マシペカの曲は、聴く者が「一緒に立ち上がれるようにする」曲が多いと感じた。

誰の心にも反骨精神はあるかもしれない。不条理に苛立ちを覚えることはあるかもしれない。だが、誰もがそれを自分の力で「なにくそ!」と吹き飛ばせる強さを持っているわけではない。頭では分かっていても、行動に移せない人も多いだろう。吐き出すこともできない人だってたくさんいるはずだ。

そういう人たちと一緒に立ち上がり、時には代わりに叫ぶ、そういう優しさをマシペカの曲から感じた。

生きにくいとされる現代で、自分の心を表現する手段が乏しい現代で、自己よりも他者を思いやることが強要される現代で、心に燻る反骨精神を忘れさせない。

現代における”ロック”という表現の答えの一つなのかもしれない。

「コンビニのアイスみたいになりたい」

撮影 : 若奈 (@wakaa_02)

ギター・ボーカルの直江はMCで「コンビニのアイスみたいになりたい」と語った。つらいときに自分を慰めるため、嬉しいときに喜びを噛みしめるため、頑張った自分を労うため、そういうふとしたときに食べるアイスみたいになりたいと。

ORCALANDが自分たちの芯だと語った「誰1人置いて行かないロックバンド」という形。マシペカが目指す形も同じだと感じた。だからこそ、難しかったであろうスケジュール調整を苦にすることもなく、この日に駆けつけてくれたのだろう。

『アルターエゴ』、『subliminal』、『宇宙船の窓から』、『さよならスターライト』、『エバードリーム』と計8曲をまっすぐに歌い上げて、2組目のヒーローも今日の仕事を終えた。