2026.03.25
鉛色の空に日は落ちようとしていた。大勢の観客に向けて、にしなは静かに口を開いた。「泣いちゃいそうです」。そんな彼女の言葉と歌をときに笑顔で、ときに感傷的な表情で、その場にいた数百人が見守っている。これは渋谷の片隅で行われた、わずか30分間のライブレポートだ──。

にしなが3rdアルバム『日々散漫』のリリースを記念したフリーライブを、3月22日に東京・北谷公園で開催した。ライブは17時45分に始まることがSNSで告知されており、僕が17時過ぎに公園へ到着すると、多くの観客がマイクスタンドを囲んでいた。17時25分にバンドメンバーが姿を見せ、しばらくして人波をかき分けるように、にしなが登場した。後方の人たちはスマホを高く掲げて、画面越しにステージを見つめている。「もうちょっと、中に入らないと危ないので」と、にしなが優しく誘導して「真白」を演奏した。続けて「ケダモノのフレンズ」を披露すると、会場から自然と手拍子が起きた。
「今までのはリハで、ここからライブを始めていきたいと思います」と言って、1曲目に届けたのは「weekly」。演奏が始まると、屋外用の照明がオレンジ色の光を放った。にしなが歌い始めた瞬間、タイミングよく鮮やかなピンク色に染まった桜の花びらがヒラヒラと舞い、会場に温かい春風が運ばれる。「一緒に歌って」と呼びかけると、みんなで声を合わせ、祝祭のムードに包まれた。2曲目「ねこぜ」では軽やかな音に合わせて再び手拍子が起き、「2番に入ったら“ほっとけー”と言ってください」と呼びかけ、コール&レスポンスで一体感が生まれた。
「渋谷の皆さま、お越しいただきましてありがとうございます。正直、誰も来ないかと思っていた」と、にしなは改めて人数の多さに驚きを見せた。観客にどこから来たのかを質問すると、関東圏だけでなく大阪、秋田、北海道などの声も上がった。「すごい……! さっきも言ったけど、誰もいないんじゃないかと不安になり過ぎて、解禁を早めちゃいました(笑)。わざわざ集まっていただけて、本当に嬉しいです。ニューアルバムを出したんですけど、聴いてくれました? みんなはどの曲が好きだった?」と聞くと、3月18日にMVが公開された「グローリー」を挙げる人が多かった。
「ありがとうございます。アルバムをリリースした記念のフリーライブなので、まだ披露していない新曲もやろうかなって思います」と言って、3曲目は「in your eyes」を届けた。
柔らかいピアノの音色に合わせて発せられた歌は、まるで軽やかにワルツを踊るみたく、悠々と宙を泳いでいる。その優雅な音の中では、頬に張り付いた少し冷たい風すらも、心地よく感じられた。

この日、特に印象的だったのは4曲目だ。「わをん」のイントロが流れると、僕の近くで「あ……」と漏れるような声が聞こえた。優しく、じんわりと心の深部に染み込んでいく歌と演奏に合わせて、ゆっくりと空の色が深まっていく。観客の中には「わをん」を聴きながら、何度もニットの袖で涙を拭う女の子の姿があった。
「グローリー」では「歌って」と呼びかけ、再び全体で歌唱をした。曲が終わると、にしなは笑みを浮かべながら「初めてみんなに歌ってもらえて、泣いちゃいそうです。歌ってもらえて幸せです」と語った。「次もみんなで楽しくゆるゆる歌う曲。こんなふうにね、桜の花が咲いている時期に、公園で友達とジュースとかお酒を飲んで語り合ったときに作った曲をやります」と紹介して「It’s a piece of cake」へ。いつかの何気ない日々が、バトンを繋いで今日という今と重なる。まるで語りかけるように響くその歌は、観客との間に親密な温度を宿していった。
ここでバンドメンバーを見送り、ステージにはにしなだけが残った。「今日は晴れて本当に良かった。3年半ぶりにアルバムを出させていただいて、今日という機会があるわけですけど。ついこの間、『3枚目を出してどんな気分?』という会話を友達としていて。自分で振り返ったとき、もちろん1枚目、2枚目も出せて嬉しかったけど、どこか実感が湧かなくて。ちょっとだけ他人事のような感覚だったんですね。いろんなことにいっぱいいっぱいで、心に余裕がなかったりとか、そういうことだったのかなって思うんだけど。でも、今回アルバムを出すことができて、ようやく嬉しい気持ちを感じていて。3枚目を出すことができたんだなって、それくらい長くやってこれたんだなって。そんな喜びだったり、安心感っていうのかな? そういう自信に繋がってきた」。正直で飾らない、彼女らしい言葉だった。
「それはひとえに、いつもサポートしてくれる周りの方々と、自分の音楽を愛してくれている皆さんのおかげで、ここまでやってこれたんだなと思っております。今日もこうして集まってくれて、本当にありがとうございます」。そう言って深くお辞儀をすると、会場から大きな拍手が起きた。「本当に感謝しかない、感謝しかないよ。他に何を言えるんだろうって思う。もっと長くやりたいけど、もう1曲だけやって終わります。これまで言いたいことを歌に変えてきたので、最後はこの曲をみんなに届けられたらなって。家族や友達、そしてみんなが私にとっての“光”だなと思っています」。そうして弾き語りで紡いだラストソングは「Twinkle Little Star」。〈トゥインクルリトルスター 夜空の星を頼りに今日も歩くよ〉辺り一帯がゆるやかに色を沈めていく。〈どんな暗闇も時代も この世の灯りを消せやしないだろう〉向こうにそびえ立つビルの、あの窓この窓に明かりが一つ、また一つと灯っていく。その光こそが、都会の星空なのだと思った。〈トゥインクルスター 光れよ〉にしなの歌は、この夜の渋谷に確かに生まれた、ひとつの光だった──。
文:真貝 聡
写真:上山陽介

<セットリスト>
weekly
ねこぜ
in your eyes
わをん
グローリー
It’s a piece of cake
Twinkle Little Star
にしな「日々散漫」リリース記念 路上フリーライブ
日時:2026年3月22日(日)17:45〜18:15予定
場所:渋谷区立北谷公園
にしな 3rdアルバム「日々散漫」
2026年3月18日(水)リリース
CD購入リンク:https://nishina.lnk.to/hibisanman_CD
配信リンク:https://nishina.lnk.to/hibisanman
<日程>
3⽉29⽇(⽇)Zepp Fukuoka OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉4⽇(⼟)Zepp Namba(OSAKA) OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉5⽇(⽇)Zepp Nagoya OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉12⽇(⽇)Zepp Sapporo OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉18⽇(⼟)Zepp DiverCity(TOKYO) OPEN 17:00 / START 18:00
5月14日(木)Spotify O-EAST 【追加公演】OPEN 18:00 / START 19:00
5⽉23⽇(⼟)仙台Rensa OPEN 17:00 / START 18:00
5⽉30⽇(⼟)岡⼭CRAZYMAMA KINGDOM OPEN 17:00 / START 18:00
6⽉6⽇(⼟)⾦沢RED SUN OPEN 17:00 / START 18:00
6⽉13⽇(⼟)⾼松オリーブホール OPEN 17:00 / START 18:00
6⽉20⽇(⼟)熊本 B.9 V1 OPEN 17:00 / START 18:00
<チケット>
スタンディング:¥5,500(税込・ドリンク代別)
イープラス:https://eplus.jp/nishina2026/
ぴあ:https://w.pia.jp/t/nishina/
ローチケ:https://l-tike.com/nishina
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