2025.12.19
DigOut編集部のよしおが選んだ楽曲たちをプレイリストにし、それに合わせて空想の物語を短編小説に昇華しました。
“音楽を通して物語を楽しむ”をモットーに作った「Concept Playlist」
今回のConcept Playlistのテーマは「温度」と「終末」
しっかりと寒くなってきた季節。温度を確かめるために暖房や、着る服に考えが行ってしまう方に是非聴いてもらいたい、読んでもらいたいConcept Playlistに仕上げました。
暖かくなる方法は無限に存在すると僕は思います。読書や音楽はもちろん。絵を見たり描いたり。何かを生み出すということは同時に温度を生み出すということ。
とはいえ、このConcept Playlistを楽しむ時はもちろん暖かい環境、格好で味わってくださいね!
世界が凍ったのは、戦争のせいでも、疫病のせいでもない。ただ、ある日を境に温度が下がり始め、誰も止められなかった。それだけだ。
太陽は昇るが、わずかな熱しか宿さない。風は吹くが、音を運ばない。街は残っているのに、ぬくもりだけが失われた。そんな世界で、僕は一人、音を集めている。
外気温は常に氷点下。昼も夜も大した差はない。肌を刺す冷たさは、生きている証拠を削っていく。防寒具を重ねても、体の芯はゆっくりと冷えていく。
だから僕は、音を鳴らす。
電池で動く再生機は文明が崩壊する前の遺物。電力も電池も限られているので無闇に使えない。それでも、音を失えば、僕は凍ってしまう。比喩じゃない。実際に、音のない夜に、大勢の人が死んだ。
音は、この世界では熱を持つ。低い音は肌を震わせ、血流を思い出させる。弦の擦れる音は、焚き火の代わりになる。人の声は、体温に一番近いだろう。
だから僕は、プレイリストを組む。
朝用の音。
まだ身体が動かない時間帯に、ゆっくりと温度を上げるための旋律。
移動用の音。
瓦礫の街を歩くとき、恐怖で凍りつく思考を溶かすためのリズム。
夜用の音。
眠る前に、世界が完全に冷え切るのを防ぐための、かすかな残響。
この世界では、魔法使いは杖を持たない。代わりに、音を選ぶ。崩れた建物の中で再生した音楽が、微かに空気を揺らす。すると、凍りついていた埃が、ほんの一瞬だけ舞い上がる。
それは、温度が上がった証拠だ。音が空間を温めた事実を僕は知っている。
昔、誰かが言っていた。「音楽は心を温める」と。今ならわかる。心だけじゃなく世界そのものを温める。
夜になると、外は完全な静寂に包まれる。この静けさは危険だ。音がない場所はすぐに死の温度まで冷える。だから僕は各地で集めた再生機や電池を手放さない。
それに、この間見つけたボロボロのギターや手軽に持ち運べるカリンバの音は身体を暖めるのに最適と言えるだろう。
耳の奥で鳴る旋律が、鼓動と重なり、身体がまだ生きていることを教えてくれる。
僕の目的地はこんな世界になる前に訪れたことのあるコンサート会場。そこでは、すべての音が綺麗に反響し、文字通り身体を温める。もしあの時のままの場所なのであれば、そこにはきっと温度が眠っている。
このプレイリストは、そのためのものだ。最後まで音を辿った者だけが、この世界の続きを見れる。僕はそう信じている。
最初の音が鳴った瞬間、僕はなにを思うのか。
寒い世界で、音はまだ仄かに暖かい。