2025.04.08
今回、プレイリストを作るにあたって、ただプレイリストを作るだけだと味気ない気がしたDigOut編集部のよしおは、プレイリストに物語をつけようと思い立った。
“コンセプトプレイリスト”とでも言いますか…。
自分自身が楽しんで作った物語を、音楽を通して楽しんでいただけたら幸いです。物語、プレイリストが気に入った方は、是非とも、ご友人や、ご家族に共有してみてください!!
第1作目の「Concept Playlist」の題名は『Good Memory~雨の記憶~』
キッチュな題名だな!と思ったそこのあなたにこそ!!この、物語と音楽を堪能してほしいです!
オススメのシチュエーションは、「雨降る街」仕事や、友人たちと別れた後などの帰り道、雨が降る街を歩いてるあなたに聴いてほしいプレイリストになっております。
物語を読む際は、歩きスマホは危険なので、電車の中、タクシーの車内などで読んでください。
次はConcept Playlist ♯2でお会いしましょう!
郊外に住む彼女の家には立派なグランドピアノが置いてあり、休日の度に僕は電車で彼女の家に足繁く通った。グランドピアノは亡くなった彼女の父が遺したもので彼女の父が亡くなってから彼女の家はとても静かになってしまったらしい。
そんな静かになってしまった家に僕は招待された。
彼女の母は僕の素性を既に知っていた様に感じつつも僕はスニーカーを脱ぎ玄関に並べ、挨拶を済ませる。彼女が事前に僕がピアノを弾くことを前日に伝えた事を僕は後に彼女から聞いた。
玄関には立派な花が生けてあり、僕を明るく迎えてくれたように感じ、僕は廊下を進んだ。
リビングに案内され、ソファーで寛ぐよう促され彼女の母は小走りでキッチンへと向かいクッキーと麦茶を用意してくれた。僕は麦茶を飲み干し彼女の母に短い感謝を述べた。小躍りする母を彼女は頬を緩めながら見ていた。
立派なグランドピアノが目に入り彼女の母に尋ねる。
彼女の父が大事にしていた物で、亡くなる直前まで鍵盤を叩いていた事。
楽しそうに鍵盤を叩く姿を見ながら、午後の予定を立てるのが幸せだった事。
今でも目を瞑るとそこに父がいて、楽しそうに鍵盤を叩いている姿を感じる事。
僕は彼女の母がどんなに父を想っているのか、父が奏でる音色をどれだけ恋しく想っているかを強く感じた。
つい話しすぎてしまったと彼女の母は口を窄めて麦茶を飲み、その姿を見て彼女は笑う。
僕はこの大きな家に流れていたであろう音や会話を肌で感じていた。
ソファーに座ってから30分程が経ったであろうか、僕は彼女の母に弾かせてもらえないかを聞いた。
彼女の母は両手を叩きながら僕をピアノの椅子まで誘導してくれた。彼女と彼女の母はソファーに座り、僕が弾き始めるのをじっと待っていた。
長い時間が流れた。
流れる汗が88ある鍵盤の一つを叩き、風通しの良い家で、僕はピアノと向き合って座っていた。
揺れていた指たちは今は膝の上にあり、部屋には優しく震音が漂っており、その震音はやがて風の音に拐われた。
彼女は僕を一点に見つめ笑顔を浮かべており、彼女の母は目を閉じ、頬を伝う涙をゆっくりと拭っていた。
暖かい風とホールクロックのチャイムが僕を通り彼女たちを包むのが見えた。
ホールクロックのチャイムの音に驚いた僕を見て彼女達が僕を笑う。亡くなった彼女の父もきっと聴いてくれたんだろうと思い僕も笑った。
雨の匂いが鼻を掠め、週末の街で流れる雑音を聴き流しながら、少し昔の記憶を辿りながら帰路に着いた。