<ConceptPlaylist #5>「(S)LOW LIFE」

<ConceptPlaylist #5>「(S)LOW LIFE」

2025.05.13

DigOut編集部のよしおが選んだ楽曲たちをプレイリストにし、それに合わせて空想の物語を短編小説に昇華しました!

“音楽を通して物語を楽しむ”をモットーに作った「Concept Playlist」

今回のConcept Playlistでのオススメシチュエーションは、都会を抜けて時間がゆっくり流れるところ。

都会の喧騒を常に耳にする方に是非聴いてほしい、読んでほしいConcept Playlistとなっています。

長々説明する気はございません。

ゆっくりと、じっくりと味わってほしい音楽、物語がここにあります。

堪能してみてください。

次はConcept Playlist#6でお会いしましょう。

(S)LOW LIFE

強い日差しと火照った身体を分離させるように向かった避暑地。

揺れる時間と陽炎が燃えてゆく。

犇めき合う建物達とは暫しのお別れ。このプレイリストで夕暮れを待とうと思う。

プレイリストの沈黙が空に舞った時には、僕の火照った身体も少しは冷めるだろう。

木々が風に身を預ける音が、日常の喧噪をゆっくりと薄めていく。

アスファルトから草と土に足が変わるだけで、こんなにも世界が違って見える。湖の表面は鏡のように静かで、対岸の山々をゆるやかに揺らして映していた。遠くでボートが水を切る音がかすかに聞こえる。

誰も急いでいない。時間も、僕も。

古びた木製のベンチに腰を下ろすと、身体の力が抜けていくのが分かる。イヤフォンの奥から鳴り始める音楽が、心の奥に触れる。一音、一音が、心のざわつきをそっと撫でるようだった。

静けさの中に身を置くことが、こんなにも贅沢に思えるのは久しぶりだ。夕暮れが、ほんのりと世界の輪郭を変えてゆく。

陽は山の向こうに少しずつ沈み、空がオレンジから群青へと移ろい始めた。湖面に映る空の色も、少しずつ深くなっていく。風も、少しだけ涼しくなった気がする。

カバンの中の文庫本には手を伸ばさなかった。ただ目を閉じ、耳を澄ませ、静けさのなかに溶け込んでいく。この時間が、心を整えてくれる気がした。帰る前に、ほんの少しだけ自分を取り戻したかった。

グラスの水を飲み干すように、音楽が静かに終わりを迎え、気がつけば辺りはすっかり夕暮れの帳に包まれていた。

プレイリストの最後の余韻が空へ消えていく頃、僕はそっと立ち上がった。

胸の奥に、少しだけ冷えた風が通る。

今なら、きっと大丈夫だ。少しだけ静かな気持ちで、あの街に帰れる。

この記事を書いた人

執筆
高島よしお
1997年生まれ/東京都出身 趣味は「フィクション」と「散歩」 年間通して映画を平均400本観ます 音楽は平均1200時間聴きます