<Concept Playlist #10>「来年の夏も」

<Concept Playlist #10>「来年の夏も」

2025.06.24

DigOut編集部のよしおが選んだ楽曲たちをプレイリストにし、それに合わせて空想の物語を短編小説に昇華しました。

“音楽を通して物語を楽しむ”をモットーに作った「Concept Playlist」

今回のConcept Playlistは、“夏”!!

今年の夏は海に行こうかな?山で涼むのもいいな〜!なんて思っているあなたのために作りました。今年の夏もきっと暑くなるでしょう!

そんな時に必要なのものは音楽!そして楽しい思い出!

今年の夏も熱中症に気をつけて水分をたくさん摂って健やかに過ごしましょう〜

来年の夏も

車のダッシュボードを見ると午前11時を回っていた。すでに陽は高く、真っ青な空には雲ひとつなかった。

照り返す海沿いの国道を、大きな車がゆっくりと滑っていく。自分で運転してるはずがどこか他人行儀に感じる。

窓から吹き込む風は、潮と砂の匂いを乗せていた。

運転席でハンドルを握る俺の横で、後部座席の連中がくだらないことで笑っている。ガラが悪くみえるが、気心知れた連中だ。

それぞれがカッコいいと思った事に全力投球できるタフな奴ら。自分たちもそれを知っていて、貫いてる。俺は彼らと共にいるのが好きだし、なにより尊敬している。

バックミラーを見てふとくだらない事を思い、鼻で笑ってしまう。

アクセルを踏みながら、ふと数年前の夏を思い出していた。助手席に恋人を乗せ、今日の目的地の海までドライブしていたあの頃。

「暑いね」と言いながら、浜辺近くのカフェでアイスコーヒーを飲んでいた。静かで、穏やかで、あの夏もあの夏で嫌いじゃなかった。むしろそんな時間が好きだった。

暫く車を走らせるとナビが目的地についた事を知らせる。

駐車場に車を停め、とても立派なコテージを前にした。ニヤけずらが止まらず仲間たちと目を合わせ、不敵な笑みを浮かべながら頷き返す。

コテージに荷物を置き、軽くルームツアーをした後、足早に海へと向かう。

仲間たちは靴を脱ぎ捨て海へ飛び込んだ。誰が一番焼けるかなんて、どうでもいい競争をしながら、浮き輪に揺られて波打ち際で転げ回っていた。

幼少期のトラウマから海に入れない身体になってしまっていた俺は、ビールを飲みながらくるぶし程までを海に浸からせ楽しんでいた。

仲間たちは少し離れたところでサングラスの奪い合いをしているようだった。

気づけば午後。日が少し傾き、コテージに戻り、冷蔵庫の冷気を浴びながら肉や酒を取り出す。仕事の早い仲間たちはルーフで炭を弾けさせていた。

仲間に一通り食材や飲み物を渡し、火照った身体をソファに沈めた。

俺はグラス片手に持ちながら仲間たちを眺めていた。焼けた肉の匂い。缶を開ける音、くだらない話。

風が、髪をゆっくりと撫でていく。

「なぁ!焼けてるぞ〜!」誰かが声をかける。

「もうお酒ないだろ?さっきのコンビニ行ってくるわー!」

そう仲間に伝え、少し離れたコンビニまで、ひとりで歩くことにした。浜辺を抜けて、街のほうへ続く道。赤くなり始めた空がゆっくりと落ちていき、今日が終わっていくのを感じた。だけど、その終わりすらもなんだか愛おしい。

「こんな日が、毎日続けばいいのにな」そう呟いた後に自分が黄昏ている事に気づき、無意識に辺りを見渡した。

やがてコンビニに着き、手当たり次第に酒をカゴに詰め込む。缶、瓶、カクテル、ビール。仲間の顔を思い浮かべながら選んでいたら、いつの間にかカゴが重くなっていた。

会計を終え、再び同じ道を戻る。辺りはもう夕暮れ。街灯がぽつりぽつりと灯り始めていた。

「買いすぎたな、流石に重い」

そんな愚痴をこぼしていると向こうから歩いてくる女性の姿が目に留まる。どこか、見覚えのある笑い声。

「…お!」

「…お?なにしてるの?」

懐かしい声だった。5年ほど前に別れた恋人。

「友達と来ててさ、近くのコテージに泊まってるんだよ」

「そっか。そういえば私、この辺に引っ越したの。今日は友達がいきなり来るって言うから、昼間に浜辺でのんびりしてた。似てる人がいるなって思ってたんだけど、まさか本当に君だったなんてね」

「コンビニ?」

「そう!お酒無くなったからみんなで買いにいこって」

「多分…お友達の分もあるしコテージ来ない?」

俺は、彼女とその友人たちをコテージに誘った。勢いでもなかったし、下心でもなかった。ただ、自然と。どちらからともなく自然に笑いがこぼれた。

コテージに向かう道中、友人と話す彼女の横顔を見ていた。彼女も変わったようで、でもどこか変わっていなかった。

「あ、ごめん持つよ」そういい、沢山のお酒が入った片方の袋を持ってくれ、彼女の友人と持ち手をシェアしていた。

コテージに着くなり彼女たちは仲間たちとすぐに打ち解け、コテージのルーフはさらに賑やかになった。

彼女は笑っていた。あの頃と同じように。

夜が更けていく中、俺はひとり、ソファでグラスを傾けていた。この夏は、きっと忘れない。そう思える瞬間が、確かにここにあった。

それから、少しずつ彼女と連絡を取るようになった。特別なことは何もなかった。ただ、何度か会い、たまに笑い合い、ゆっくりと時間を積み重ねていった。

次の年の夏、また同じ海へ行った。彼女と仲間たちと一緒に。

変わったものもあれば、変わらないものもあった。過ぎていった時間とこれからの時間、どちらも大切で、彼女も同じ事を思っていた。

「また来年も来ようね」

彼女がそう言ったとき、俺は笑って、軽く頷いた。

この夏の匂いを、来年の夏も。

この記事を書いた人

執筆
高島よしお
1997年生まれ/東京都出身 趣味は「フィクション」と「散歩」 年間通して映画を平均400本観ます 音楽は平均1200時間聴きます