<ライブレポート>なきごと『ビタースイートベイビーツアー2026』@東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)

<ライブレポート>なきごと『ビタースイートベイビーツアー2026』@東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)

2026.06.26

2018年に産声を上げたなきごとというバンドの全てを、この身一つで背負っていく。2025年7月にメジャーデビューを果たし、改めて磨き直したなきごとという表札を掲げ続けていく。2026年5月30日(土)、なきごとが東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)にて開催した「ビタースイートベイビーツアー2026」は、こんな覚悟のステージになると思い込んでいた。なぜなら、二人三脚で活動を続けてきた、言い換えれば片割れにも等しいメンバーを2025年の末に失ったのちの旅路だったから。しかし、1月にドロップされた新体制初のシングル『甘々吟味』を添え、全国13会場を巡ったツアーの最終日で示されたのは、なきごとがとっくのとうに水上えみり(Vo/Gt)一人だけのものではなくなっていたことだった。

文:横堀つばさ

写真:佐藤広理(X @hilf_ntlo)

ここでエクスキューズを加えなくてはならないのは、あくまでもこのバンドは「疲れ切った日常にほんの少しのなきごとを」のメッセージ通り、水上が抱える息苦しさや生活の行き詰まりを出発点にしているということだろう。例えば、空気の膜をまとった詞と歌唱が物哀しさを演出したオープナー『あいかわらず』から雪崩れ込んだ『癖』。「なきごと、始めます」の名乗りと共に、鯨の鳴き声を彷彿とさせるギターが轟くと、舞台は深夜の街を想起させる深い藍に包まれる。そんな中、サポートメンバーを加えた5人だけが浮かび上がる様子は、<あなたとの記憶に縋る こんなのダサいよな>なんてリリックと相まって、行き交う人々がその深層に隠した孤独を暴いているよう。あるいは、グランジーなギターや硬派なピッキングのベース音でフラストレーションをぶちまけた『忘却炉』を終え、スペーシーなイントロから突入した『ユーモラル討論会』。〈念願の灰になるわ〉の一見自暴自棄さえ思える言葉尻は、塵をポイっと放り出すみたいに怒りを露わにしていく。

こうした独り言を、「あなたの声を聞かせて!」とシンガロングを発生させ「私も愛しています!」と返信した「グッナイダーリン・イマジナリーベイブ」のように、私とあなたの共通項としてのぼやきであり、讃美歌に変換してきたのが現在のなきごとだ。「なきごとを見ている間だけは、この場所にいて良いんだと自信を持ってください」「あなたとここに来れて良かった。そう本気で思ってます」と差し出した『短夜』。「私は音楽を辞めない。声が出なくなるまで歌っていようと決めました。あなたがいてくれるから、書ける曲がある。ずっとあなたが私の側にいてほしい」と捧げた『204号室』。「自分のことを嫌いになる夜があっても大丈夫。私は私でしかないし、あなたはあなたでしかない」と届けた『またたび』。〈あなたとひとつになりたいのです〉と敬語混じりの不器用なリリックも、春色の淡いライティングの中で紡がれた〈僕の全てかけて守りたい〉というプロポーズさながらの1行も、〈きみのことが好きです〉の最終ラインさえも、この世でたった一人に向けた愛をこの上ないほどに伝えている。

当然、ここで歌われている他者を慈しむ気持ちは、ベッドの上で溶け合う恋だけに留まらない。メンバーたちと戯れながらあちこちを駆け回り、ゆっくりとフロアの全方位へと目を配る水上の振る舞いがハッキリと体現している通り、このラブレターの宛先はファン一人ひとりである。その顔も指も足も全てが君だけのもの。だから、尊いんだ。ふらふらと放浪する惑星を揺れ動く心へ照射した15曲目『知らない惑星』をはじめ、いくつもの逡巡を重ねながらなきごとが辿り着いたのは、こんな極めて明快な結論だったのだろう。

インスタントで代替可能な存在として自らを卑下していく書き出しから始まる『ドリー』は、この結果を象徴するナンバーだ。シンバルの連打とかき鳴らされるギターに乗せ、水上の口からポロポロと溢れ出す言葉は一層の熱を帯び、単語同士の間隔も短くなっていく。そこから目前に立ち上がる〈きみのはなしをしよう〉の1節は、なきごとの本質を撃ち抜いているではないか。そう、8年前、1stデモとしてこの曲を収めた『SIKI』をリリースしてから、彼女たちの軸足は確かに変わらなかったのである。

だからこそ、水上のこんな言葉からラストを飾った2曲は、独りで押し殺してきた心の軋みを汲み上げるために誕生した楽団が、他者の声へ耳を傾けるための歌を綴ってきた理由を物語っていたように思う。

「生きてることと同じくらい死ぬことは隣り合わせにあって、死ぬことと同じくらい生きることも怖かった。でも、結果的に私は死なないことを選んだんだと思いました。この選択が正解だったのか。それをずっと考えているけれど、あなたの顔を見たら正解なんだと思います。死にたくないって思うのは、あなたの顔が浮かぶから。死にたくないって思うのは、周りで支えてくれるあなたがいるからなんです」

顔を綻ばせ、飛び跳ね、時には涙を滲ませる。そんな君がいたから、なきごとは僕と私へ贈る歌を、誰かを想うミュージックをしたためるようになったのだ。そして、あなたが求めてくれたから、生を望み、ギターとマイクを掴み続けられたのだ。「沢山の愛を受け取って、今だから歌いたい曲」と披露された新曲『ひといき』は、そんな彼女とオーディエンスの連帯を鮮やかに描き出していた。玲瓏なキーボードを下地に、生き延びてしまったことへの後悔と焦燥が次から次に吐露されていく中、フィードバックを経て、しんしんと柔らかなギターの音が降り積もっていく。光が輝きを増していく。泣き声にも似た希死念慮の告白が、愛を求める姿に移ろっていくのである。

それは「あなたの目を見て歌います」と、エンディングに据えられた『生活』も同じこと。深く息を吐く水上の様子は、当然のことが上手くできないほどに壊れきった毎日を可視化し、「生きているだけなのに、なんでこんなに苦しいんだろう。なんで自分のことなのにわからないんだ!」という咆哮は、絶望の嘆きとしてぶちまけられていく。にもかかわらず、彼女は〈それでも〉の4音で全てをひっくり返すのだ。この魔法みたいな逆接の接続詞。その原動力は、この場に集った1人ひとりが与えてくれたものだったに違いない。

そして、どれだけ押しつぶされようともこの世にしがみつくエネルギーを与えてくれた観客の存在は、そのまま彼女がなきごとを続けることを決めた動機とイコールだったのではないか。

「大好きな曲ができなくなることに耐えられなくて、1人でもなきごとという生き物と歩んでいこうと決めました。あなたの居場所を守りたかった。あなたと人生を共にしていきたいです」

ダブルアンコールに応え、大熱唱を巻き起こした『深夜2時とハイボール』は、互いの弱さを請け負い、足並みを揃えて歩んでいくための凱歌にほかならなかった。ツアーの由来となった『甘々吟味』が酸いも甘いもを軽やかに乗りこなしていく作品だったことからも明らかな通り、なきごとは人生丸ごとを背負い込んで、君の逃げ場をいつまでも開き続けていくのだ。

告知

なきごと自主企画

コンセプトワンマンライブ

07.09(thu) ” SIKI ORIORI “

08.07(fri) ” Summer祭 “

09.04(fri) ” ニンゲン’s 感謝祭 “

チケット:https://eplus.jp/nakigoto/

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