2026.03.25
2026年3月15日(日)、大阪発のスリーピースバンド・the paddlesが東京・渋谷WWW Xにて「いつか君と別れてしまうならツアー」のツアーファイナルを迎えた。
2025年12月に発表した3rd EP『結婚とかできないなら』を片手に、対バン編9公演、ワンマン編5公演(うち追加2公演)を巡ってきた同ツアー。
歌わなくてはならない理由と旅に出る意味を再び見出した一夜の様子をレポートする。
文=横堀つばさ
撮影=オガワタクヤ

「the paddlesはみんなの人生にとって、どんなバンドなのかを考えてる。今日はその答えみたいなライブになるんじゃないかな」。<ちぎれるほど>という類をみない、しかしキュートな響きを宿した修飾語と少しぶっきらぼうな言葉尻で、整形できないくらいの狂愛をぶちまける『ちぎれるほど愛していいですか』を据えたオープニングから数曲を終え、柄須賀皇司(Vo/Gt)はこんな言葉を口にした。
では、the paddlesがこの日叩きつけた答案用紙には、何が書かれていたのだろうか。それは、幕開けで宣言した「みんなのことを笑顔にするバンド」かもしれないし、随所で語った「みんなと歳を取っていけるバンド」だったのかもしれない。
はたまた、もはや口上のように言い続けている「みんなの背中を押すバンドじゃなくて、みんなの手を引いて歩いていくバンド」が模範解答なのかもしれない。しかしこうしたアンサー以上に、the paddlesとは大切な人を今大切にしようと思わせてくれる音楽隊なのだと強く感じる2時間弱だった。
幸福は独占するのではなく共有することで真の効力を発揮するのだと、悲しみは分かち合うことでその身を軽くできるのだ、と教えてくれるロックバンドが舞台に立っていたのである。

当然、柄須賀が語ったいくつものバンド像も、the paddlesの構成要素であることに疑いはない。「笑顔の準備できてる?笑顔、くださーい!」と投げかけた2曲目『花』では、飛び跳ねるフロント2人とシンクロするみたいに波打ったフロアによって、さらさらとした風に吹かれた花畑が出現。
「笑顔が咲く」なんて表現があるように、ここで言う花とは目の前で腕をはためかせるあなたのことであり、緩やかに積み上げられていく渡邊剣人(Dr)のビートに乗せて<今、芽吹き出した><ただ1人咲く花のように>と守り抜いた純粋な感情の美しさが肯定されていく。話しまくりというか、もはや漫談と言っても過言ではないMC然り、やはり彼らの土台には「ただ君に笑ってほしい」という思いがあるのだろう。

加えて、the paddlesのディスコグラフィーには人生のターニングポイントと自らの年齢へ焦点を当てた楽曲も多い。「節目の歌です」とドロップされた『プロポーズ』は、カーテンをロールアップするがごとき柔らかな数撃と<23億回のこの鼓動を 捧げたいんです>なんて書き出しであまりにも愛おしく、時には雑な部分だって見せてしまいたい関係を刻印していくナンバーだし、クライマックスを飾り付けた『22』や『25歳』は何よりもその表題が雄弁。『25歳』の最中、<意味が無いことで喧嘩しよう><意味が無いことで笑い合おう>というリリックと共に、柄須賀がメンバー2人の名前を叫んだワンシーンからも読み取れる通り、仕事を辞め、バンドマンとして生きていくことを選択した彼らが、時々で抱いていた決心と葛藤がこうした歌たちには凝固している。
3人が自身の生き様と岐路を織り込んだ作品を捻り落としている理由は、『22』の直前、柄須賀が溢したこのMCからも明白だった。「みんなの目の前で歌い続けるために、このバンドで売れたいと思う。自分の人生を歌にして、みんなの節目にいたいと思います。みんなの人生の目標が、the paddlesのライブに来ることでありますように」。
つまり彼らは、「あんなことあったよね」「思えばあの出来事がキッカケだったよね」と語り合えるような人生の停車駅を歌にすることで、異なるレールを辿るファンと共に走り続けようとしているのだ。「上手くいくことなんてさらさらない。だから人生は面白い!泥臭くたって良いよ。いっぱい苦労をしていこう。その方がおもろい人になれるから」と『22』に連ねた『会いたいと願うのなら』で、ぐわんぐわんに首をぶん回す松嶋航大(Ba)や<ここで命を燃やすんだ>の1節で握りしめた拳を掲げる柄須賀の姿は、いつだってオーディエンスが逃げ込める場所であり続けようとする3人の覚悟を示していた。
これほどまでに深い愛情を贈られたなら、「the paddlesからもらったものを私も誰かに手渡したい!」と思ってしまうのが至極当然のはずで、随所で仲睦まじく目を見合わせる2人組の様子もチラリ。だが、「自分が大切にしてもらった分だけ誰かを抱きしめたい」と思わせることは容易ではない。「ライブが終わったら真っ先にあの人へ連絡したい」とソワソワさせることは簡単じゃない。それでは、なぜ彼らはここまで淀みのない感謝と大好きを伝えられたのだろうか。
この疑問に一発回答してくれたのが、ハウリングが客席を包む中、ゆっくりと突入していった『結婚とかできないなら』だった。4分で刻まれるミニマムなベースと削ぎ落とされたリズムに支えられ、<一緒にいたいだけ それ以上はおまけ>と痛切な願いを便箋に綴る一方で、いつか訪れてしまうかもしれない別れの予感が胸をキュッと締め付けていく。
本当はバイバイなんて想像もしたくないのに、小さな喧嘩が大きな亀裂になってしまうことを知っているから、やり切れないほどに悲しくなっていく。こうして溢れかえった感情が加速していくアンサンブルによって、<愛だの恋だの 分からないままでわかれない>という1行へ結ばれる。
そう、ただこの胸のトキメキと溶けるほどの幸福を信じれば良いのだ。恥ずかしがって、躊躇っている暇はない。「何であの時伝えなかったんだろうって、後悔していく生き物が人間だと思います」と話したように、彼らは永遠がないことを理解していた。「絶対ね!」という約束の脆さを知っていた。だからこそ、the paddlesはこの瞬間に持てる感情の全てをぶつけようとしていたのである。

そして、その全身全霊で突っこんでいく態度は、恋愛のみならず、人生へ敷衍されるもの。ライブも終わりが近づく中、「みんなの前で、あと何回歌えるかな。みんなに放ってあげられる言葉は、あと何個あるかな。今日が最後でも良いって日を積み重ねていくのが、人生だと思ってます」と語った通り、3人はバンドだって、心臓の鼓動だって永久じゃないことを分かっている。それゆえに、the paddlesが掻き鳴らすミュージックは、その日の全体重が乗っかったものであり、我々を素直に、そして剥き出しにさせていったのだ。
こうしてゴールテープが切られた「いつか君と別れてしまうならツアー」。この後開催される2本のエクストラ公演を経て、the paddlesはもっともっと温もりに満ちたバンドになっていくはず。そんな彼らが次に見据えるのは、8月5日(水)に繰り広げられる東京・渋谷Spotify O-WESTでのワンマンライブ「人生の登場人物として」。出演してくれた全てのあなたがいつでも再登場できるよう、3人は今日も長すぎる新東名を走っている。

<セットリスト>
1.ちぎれるほど愛していいですか
2.花
3.恋愛ヒステリック構文
4.プロポーズ
5.赤いアネモネ
6.倦怠モラトリアム
7.今は、エバーグリーン
8.予測変換から消えても
9.夏の幻
10.結婚とかできないなら
11.ブルーベリーデイズ
12.22
13.愛の塊
14.会いたいと願うのなら
15.25歳
<アンコール>
1.カーネーション
2.Alright

■公演名
the paddles ONEMAN LIVE「人生の登場人物として」
■会場
東京 渋谷Spotify O-WEST
■日時
2026年8月5日(水)
OPEN/START 18:30/19:30
前売¥3,900(+1D)
■出演
the paddles
※ワンマン公演となります
■TICKET 🎫
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