<ライブレポート>さらさ 東名阪ツアー「Thinking of You Tour 2025」

<ライブレポート>さらさ 東名阪ツアー「Thinking of You Tour 2025」

2025.11.26

自身のキャリア史上最大の規模、さらに最初で最後と銘打った、東名阪ツアー「Thinking of You Tour 2025」が、11月19日(水)渋谷のSpotify O-EASTにて、公演2日目を迎えた。

冬の入り口に差し掛かった夜、平日にも関わらず開場前からすでに長い列が伸びており、ざわめきの中に混ざる期待の鼓動がひしひしと伝わってくる。会場に入るとフロアは既に呼吸を揃え始め、“特別な夜になる” という空気が、言葉を交わさずとも観客同士に共有されていたように思える。

湘南出身のシンガーソングライター「さらさ」は、悲しみや落ち込みから生まれた音楽のジャンル”ブルーズ”に影響を受け、自身の造語“ブルージーに生きろ”をテーマに、ネガティプな感情や物事を作品へと昇華する。

そんな彼女の東名阪ツアー2日目の“東京の夜”に、DigOut編集部は潜入。満員のO-EASTと共に、鮮やかに会場を塗り替えていった様子を本記事で記している。

Thinking of You

photo by @teppeikishida

照明がゆっくりと赤みを帯びて落ち、ステージ後方から柔らかな光が滲み出す。その光を背に、さらさが静かにステージに歩み出ると、O-EASTに歓声が水を打ったように広がる。

シックでフォーマルな衣装に包まれた彼女の佇まいは凛としており、それでいてどこか親密な温度を持っていた。まるで、観客一人ひとりの心に直接触れに来たかのようだ。

オープニングを飾ったのは、このツアーの象徴とも言える『Thinking of You』

深い呼吸のようなイントロが会場を満たし、温度がすっと下がる。それは冷たさではなく、冬の朝の澄んだ空気を思わせる気持ちのいい感覚だ。

さらさの声は透明度を増し、フロアにまっすぐと伸びていく。有元 キイチ(Gt)の繊細なギタータッチ、石田玄紀(Key/Sax)の柔らかいキーボードの音層が重なり、瑞々しく息をするように音が揺れ、観客は隅々まで染み渡っていく音に身を預けていた。

続く『太陽が昇るまで』では、ステージに少しずつ“光”が増えていく。さらさが軽やかにステップを踏むたび、揺れる照明が柔らかく反応しているようだった。曲のリズムを身体で刻む彼女の姿は、まるで音と遊ぶようでもあり、音がさらさの動きに導かれているようでもあった。有元のギターが跳ね、石田のキーボードがその上を彩り、松浦千昇(Dr)のドラムリズムが綺麗に脈打ち、フロアの空気がほんのりと少しずつだが温まり始める。

3曲目の『祈り』では、照明が一気に落ち、背後から伸びた強いスポットライトがさらさの輪郭をくっきりと浮かび上がらせ、石田のサックスがそっと差し込まれ空気が心地よく震える。曲の世界に深く潜るように、バンドは静かに、しかし自由度の高いアレンジで音を広げていく。音源では抑えられているであろう“遊び”がライブでは大胆に顔を出し、そのたびに観客の目線が吸い寄せられた。暖かい照明が滲み、さらさの声に柔らかな“祈り”が帯びる。

『Roulette』では、照明が深い紫に変わり、さらさの表情も少しシャープになる。彼女は観客の方へ歩み寄り、問いかけるように一節ずつ歌う。そんなニュアンスを孕んだ視線に、フロアから息を呑む気配が伝わる。次第に紫の光はさらに深く落ち、曲の持つ迷いや揺れを映し出すように揺れ動いていた。それは、さらさのライブにおいて“心の内側の景色”がもっとも強く、露わになる瞬間でもあったように感じる。

photo by @teppeikishida

ここでさらさは、観客に柔らかい口調で「ようこそお越しくださいました〜!ありがとうほんとに!今日、美しく暖かく、孤独な音を出してくれる“さらさらラブリーロンリーバンド”を紹介したいと思います!」と、その声は信頼からなのか普段の彼女のまま、飾らず自然体のまま、今夜を彩るメンバーを紹介する。

続けて「この装飾は『太陽が昇るまで』のMVでもアートワークをやってくれたMoneちゃんが作ってくれました〜!このメンバーでお届けしたいと思います。よろしくお願いします。」といい、再び音の世界へと戻っていく。

『温度』では、ライブならではのサウンドアレンジが施されていた。石田のサックスが添えるように響き、オオツカマナミ(Ba)のベースラインが、淡く曲の質感の深度を高めていった。音源では繊細に構築されているパートが、ライブではさらに太く温かく、“体温”を持った音楽として目の前に現れる。観客は音が重なっていくたび小さく身体を揺らしながら、その温度を丁寧に受け取った。

続く『ネイルの島』では、波のように寄せては返す一定のリズムをキープ。松浦とオオツカが作る繊細な揺れが曲全体を包み込み、さらさはその上を軽やかに漂うように歌う。

デビューシングルの持つ無垢さが、ライブを重ねた今だからこそ別の意味を帯びる。その再生力がライブの醍醐味であり、バンドの強みだろう。

『f e e l  d o w n』では、淡い照明の中、さらさの声が輪郭だけを残して浮かび上がる。静かに始まる曲調は、まるで夢の入り口のようだった。後半、さらさ自身がボンゴを柔らかく叩くと、その一打がフロア全体をそっと撫でるように響く。

『青い太陽』に入ると、照明が一気に鮮やかに広がる。水色、緑、オレンジ、青。その4色がまるで水面のように揺れ、ステージを包み込む。

ウィンドチャイムとチャフチャスを優しく撫でたさらさは流れるように『午後の光』へと繋げる。静寂とした音の中で“余白”が際立っていくフロア。音が少ないわけではない、むしろ今“必要な音しか置かれていない”という美しさを感じる。そこにある静けさが、逆に観客の内側を深く揺らす。

これが設計された音世界なのかが気になる筆者は、手元にある「Inner Ocean」のLPをじっと見ながら考えている。

photo by @teppeikishida

曲が終わりさらさが「平日なので学校とかお仕事の終わりで来てくれたかと思います。ほんとにほんとに嬉しい気持ちでいっぱいです。今回は、初めて恋愛ソングを書いた曲のタイトルがツアータイトルになっているんですけど、“Thinking of You”の“You”は来てくれるお客さんに対しての気持ちで付けました。生きてると色々あるじゃないですか。みんなそうだけど、そんな中で毎日続けていくことって大変なんですよ。そんな時に「まだ頑張ろう」とか「ここでもう一個頑張ろう」って思えるのは、いつも応援してくれる皆さんのおかげでしかなくて、こうやって皆さんと待ち合わせして、同じ時間を共有できることは本当に幸せで、これをパワーに私は一年頑張ってます。そんな感謝の気持ちを込めて付けてみました」と、観客へ向けて素直な言葉を置く。

続けて「次にやる曲は、コロナ禍入ってすぐに作った曲なんですけど、人の思考とか価値観って白黒はっきりつかないと思っていて、自分の考え方もそうだけど、グラデーションになってることの方が多いんですよ。白黒はっきり付けたくなっちゃうし、わかりたくなっちゃったり…そのグラデーションの中に価値があって、私はそこを見つめられる人になりたいなって思って書いた『グレーゾーン』って曲をやります。」といい、披露した『グレーゾーン』では、曖昧に広がる色の中で、さらさはスローなジャムで、踊るように歌い上げる。

随所に光る有元のギター。シュッとしているのに太く、渋く、芯がある。曲の都会的な質感が、彼のチョップによって、より立体的になりフロアの温度がじわじわ上がっていくのが分かる。

続く『予感』では、さらさの高音が最も美しく響き、柔らかく残る残響、その上をすっと通っていくような清らかな声。照明も空気も軽やかに震え、未来へ向かって開いていくような雰囲気だった。

『Virgo』では、さらさがステージの縁へ座り、観客と同じ目線の高さで歌い始める。その穏やかな表情にフロア中が息を呑む。曲が持つやさしい時間が、そのまま会場に広がっていった。

photo by @teppeikishida
 

曲が終わり、穏やかな幸福感が漂う中、さらさがフロアをゆっくり見渡しながら「次は『祝福』って曲やろうと思います。生まれたら別れって付き物で、関係性の死もそうだし文字通りの死もそうだし…いつまで経っても慣れない。でも、そういう中でこそ感じられる幸福な瞬間とか景色とか時間があると思っていて、人の人生の長さとかが全部決まっていたとしたら、限られた時間の中で、別れよりも出会えたこととか、その人の人生の中に自分がいることにすごく感激したいなって思って作った曲です。」といい『祝福』を披露。

彼女の視線は穏やかだが決意を帯びており、会場の空気がひと呼吸分だけ深く沈んだ気がした。ステージが柔らかなオレンジ色に染まり、その光がまるで夜明け前の暖炉のようにフロア全体を包み込む。

さらさの歌声はやさしく揺れ、観客に寄り添うように漂う。一音一音が肌に触れるほどの近さで鳴り、温もりと少しの切なさが混ざった“人肌の音楽”が広がる。

楽器隊も寄り添うように抑えめに弾き“あなたの隣に座るように歌う”そんな光景が目に浮かぶ。

そして、さらさの声から始まった『朝』

曲の終盤、さらさが「みなさん一緒に歌ってくれませんか?」と問いかけた瞬間、観客の胸の奥で火が付きコールアンドレスポンスが始まる。

やがてO-EAST全体が一つの大きな“声の海”になる。さらさはその大きな声に包まれながら、嬉しさを隠しきれない笑顔で歌い続ける。ただマイクの前に立つのではなく、まるでその声に手を添えるように、静かに、でも確かに、観客の歌を導いていた。

その流れを継承するように披露された『リズム』

これまでの柔らかさが一気に跳ね、松浦のドラムで、フロアの重心とさらさの声が軽やかに跳ね、有元のギターとオオツカの“リズム”が追いかけるように絡み、ライブならではの“走り出すエネルギー”が爆発する。観客の足元が揺れ、手が上がり、身体が勝手に動いてしまうほどのグルーヴに、O-EASTが“リズム”の上で踊り出す。

そして『Shakunetsu』

点滅する照明が鋭く空間を切り裂き、さらさの声がその光の隙間を突き抜けていく。疾走感はさらに加速し、“ただ速い”ではなく、“ただ熱い”でもなく、感情が前のめりで噴き出すような、そんなスピードだった。観客の体温が一気に上がり、息を切らすように熱狂の波を越えたあと、さらさは静かに息を吸い『退屈』へと滑り込む。

先ほどまでの熱とスピードを急に手放すのではなく「少し座って、続きを話そうよ」と語りかけるような緩やかなトーン。会場は一度静かになり、照明が落ち着いた暖色へと戻る。余白が広がり、観客の胸の鼓動だけが静かに響く。その一瞬の“間”が、次への期待をじわじわと膨らませる。

そしてラストに『Amber』を披露。

曲が始まった瞬間、さらさの声の色が変わる。ここまで歩いてきた物語の終着点であり、この夜の余韻を象徴するような温度が宿る。

照明は琥珀色。まるで夕暮れの終わりと夜の始まりが溶け合ったような色でさらさの輪郭を美しく縁取る。サビに向かうにつれ、観客は静かに、でも確実に息を呑む。音が落ち、声が残る、そして照明がふわりと揺れる。そのすべてが、この夜の物語を包み込むように優しかった。

photo by @teppeikishida

最後の一音が消えた時、その“余韻”の中で、歓声と拍手が止まらず、拍手は次第に一つの音となり、アンコールを求める拍手がO-EASTの壁を震わせるほど響いた。

再登場したさらさは笑顔で「私のワンマンライブでは恒例になりつつあるアンコールスタイルがありまして、実はアンコール決まっておりません!やって欲しい曲を叫んでもらって決まります!なんだけど、毎回みんなの声が混ざりすぎて聞こえないの(笑)なので、『Thinking of You』、『太陽が昇るまで』、『朝』の3曲に絞りました!」と言い『朝』に決まる。

先ほどよりも何倍も大きなコールアンドレスポンスが起こり、その声がO-EASTいっぱいに広がった。この夜だけの“朝”が確かに生まれた。

そしてアンコール2曲目に、ファンからのリクエストが多かったという『船』を披露。

さらさは一心不乱に歌い切り、曲の終わりにはさらさ自ら花を観客へとプレゼントし、さらさの声と光が最後まで観客に優しく寄り添った。

“Thinking of You”

ツアーの名前がそのまま形となり、温度となった。

photo by @teppeikishida

<セットリスト>

1.Thinking of You

2.太陽が昇るまで

3.祈り

4.Roulette

5温度

6.ネイルの島

7.f e e l  d o w n

8.青い太陽

9.午後の光

10.グレーゾーン

11.予感

12.Virgo

13.祝福

14.朝

15.リズム

16.Shakunetsu

17.退屈

18.Amber

<アンコール>

1.朝

2.船

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この記事を書いた人

執筆
高島よしお
1997年生まれ/東京都出身 趣味は「フィクション」と「散歩」 年間通して映画を平均400本観ます 音楽は平均1200時間聴きます