2025.10.08
9月28日(日)下北沢DaisyBarにて激情ロックンロールバンド、garassが初となる東名阪ツアー「宣教」を掲げ、福岡・親不孝通りから東京に乗り込んできた。
この日、彼らの声かけに応え、乙女座症候群、飄飄、白昼夢、もしもFortissimo、去勢といった錚々たる面々が下北沢に集結した。
ジャンルもスタイルも異なる彼らが、自らの音を武器に強烈な個性を放ち、ステージが変わるたびにフロアの色は塗り替えられた。
「宣教」というタイトルに込められた通り、ただのライブイベントではない。音楽を通じた布教であり、宣言であり、未来への狼煙のように思える。
本記事では「宣教」の最後の一音が鳴り止むまでの濃厚な時間を記している。
トップバッターを飾ったのは4ピースガールズバンド「乙女座症候群」
高校生ながらも、ステージに立った瞬間の存在感は堂々たるものだった。初々しさを残しつつも、鳴らす音は想像を遥かに超えるスケールを持っているように感じる。
1曲目から会場を包んだのは、夏の風を感じさせるギターリフと、どこまでも伸びるボーカルの透明感。キュートさを滲ませながらも甘さに寄りすぎず、純度の高いロックの響きを確かに感じさせるサウンドだった。
リズム隊の安定感も抜群に上手く、ナナ ミ(Dr)のドラムが織りなすタイトなビートに、りなべる(Ba)のベースが温度を加える。そこにくみ(Gt)のギターソロが輝き、繊細かつ大胆なフレーズがオルタナティブロックのフィールドにもしっくり収まりそうなバランス感覚を見せつける。
曲を重ねるごとにフロアからの拍手は大きくなり、彼女たちの音楽に引き込まれていく姿が目に見えて分かる。
MCでは、ゆな(Gt/Vo)が「私たち的に新しいことがたくさんの今日、その新しいことを忘れずに全力で行きます!」と残し、『私だけのロックスター』を披露。若さゆえの衝動と、限りない可能性を存分に感じられた。
今まさに勢いを増している彼女たち。高校生という枠に収まらない確かな表現力を備え、これからシーンに新しい風を吹き込む存在になることは間違いないだろう。
続いて登場したのはスリーピースロックバンド「飄飄」
バンド名を一見するとクールに構えているように見えるが、ステージに立つ彼らの奥底には燃え盛る熱が隠されていた。まだ若さの色が強く残るものの、荒削りな部分こそギラついたロックの衝動を生々しくもストレートに届ける音が観客の胸を強く打った。
オープニングを飾ったのは『Dry』
乾いたギターのフレーズがフロアに響き、すぐに熱を帯びていく。ジャリっとした音の粒はむしろ鮮やかで、息を飲むほど真っ直ぐな感情がそこにはあった。
曲が終わり吉住隆乃介(Vo/Gt)が「改めまして飄飄です!飄飄のライブは自由にどんな乗り方でも良いので最後まで楽しんで帰ってください!」と軽快に放ち『降りますけど』を披露。
軽妙なYusei Yoshinaga(Ba)のベースイントロにイデグチミチエ(Dr) のドラムリズムが正確に重なり、観客は自然と身体を揺らす。そんなサウンドに踊るように言葉を乗せる吉住隆乃介の表情はとても晴れやかだった。
ラストに現在、MVを製作中の『umigamieru-』を披露。そのタイトルが示す通り広い海が背景に浮かび上がるような開放感を感じつつ、大きく広がるサウンドに包まれ、観客はその景色を共有するかのように両手を掲げた。
クールさと熱さ、相反する美学。飄飄はそのすべてを武器にし、未来へと走り出していく。今日のステージは、その勢いを確かに示す一夜となった。
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次に登場したのは東京・大塚発のロックバンド「白昼夢」
1曲目の『スタートライン』が始まった瞬間、オレンジの照明がステージを優しく照らし、夕暮れ時の情景が自然と浮かび上がる。拳の効いた力強いさかい(Vo/Gt)の歌声が観客を真っ直ぐに突き刺し、これから始まる物語の幕を堂々と開いた。
背後を支えるのは、地を這うような力強さでビートを刻むみちこ(Dr/Cho)のドラム。そしてサポートにCity Loversのベース阿部 シュンが楽曲に確かな推進力を与えており、都会的なサウンドのラインを支え、バンドに厚みを与える。
『リフレイン』では繰り返されるフレーズが胸の奥に響き、まるで忘れられない記憶を呼び起こすようだった。
続いての『Re:mind』ではボーカルの叫びに似た歌声が心を揺さぶる。熱にうなされている時に遠くで鳴っていてほしいような、心を掻き立てる切実さがあった。
MCではさかいが「音楽ってサブスクで十分受け取れると思います。けどライブハウスでしか伝わらない熱量、距離があると思います。“あなたたち”ではなく“あなた”に精一杯歌って帰ります」と残し、最後に『テイクイットイージー』を披露。
肩の力を抜いて楽しめる曲ながら、バンドの熱は最後まで衰えることなく、むしろリラックスした空気の中で一層の輝きを放った。
白昼夢の音楽は夕暮れの残光のように響き、その余韻はDaisyBarに長く漂い続けていた。
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続いて現れたのは千葉県幕張発のスリーピースガールズロックバンド「もしもFortissimo」
登場からフロアの空気がパッと明るく照らされたように変わり、観客の表情も自然と緩んでいく。彼女たちの魅力は、まっすぐで眩しいほどにストレートなサウンドだ。
1曲目を飾ったのは『神様』
思わず口ずさみたくなるキャッチーさもありながら、冒頭から高らかに響くよな(Gt/Vo)のボーカルが観客を一気に掴み、まるで祈りがそのままロックに変わったような強さを持っている。
続く『Cinderella』では軽快でポップなリズムがキラリと抜け、観客の体も自然とステップを踏むように揺れる。
『Music』ではタイトルそのままに、音楽そのものを全身で楽しむ姿が伝わり、DaisyBarの空気が一気に解放されていく。中盤の『HOPE』ではエネルギッシュな演奏の中にも真摯なメッセージが込められ、拳を突き上げる観客と共鳴した。
『大丈夫』では肩の力を抜いたような優しい響きが広がり、不安や迷いを抱える観客を包み込むようだった。笑顔で歌うメンバーの姿に、多くの人が励まされているのがわかる。
そしてラストの『blue』では、青空を駆け抜けるような爽快感がフロア全体を包み込み、観客はリズムに乗りながら大きな声で応えた。
今夜、もしもFortissimoが放った真っすぐな音楽はDaisyBarに眩しい光を残し、この先の道も明るく照らしたように思える。
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怪しげな雰囲気を燻らせながら登場したのは京都発のGirls Cyber Punk Band「去勢」
ステージに立った瞬間から、張り裂けんばかりのノイズがフロアを覆い尽くし、観客の鼓膜を直撃。その音の洪水に乗せて放たれたのは『Utu girl Sow Mach』
躁と鬱を行き来する剥き出しの叫びを開始早々に披露した。
欲躁ちゃん(Vo/Gt)は愛や執着、衝動といった人間臭い愛すべき部分を言葉に変え、マイクを通してぶちまけていく。その姿は狂気的ですらあるが、だからこそリアルで、目が離せない。
あやか(Sup/Gt)が渋いギターリフを響かせ、時に切り裂くような鋭さを持って観客を揺さぶり、ベースのここな(Sup/Ba)とドラムのちぇるちゃん(Sup/Dr)は荒々しくも重心を低く保ち、混沌としたサウンドをしっかりと地に繋ぎ止める。そこに乗るノイズはただの歪みではなく、生々しい欲望を増幅させるフィルターのようだった。
去勢が提示してくれる“肯定”は、観客の心を揺さぶり、痛みや恥すら音に変えて解放してしまう。人間臭い部分をそのまま音楽に昇華させる姿勢こそが「去勢」の真骨頂。
美化も隠蔽もせず、汚れや歪みすらも鳴らし切ることで人間の本質に迫っていく気迫を感じた。観客はその暴力的なほどの熱量に呑まれながらも、心の奥で強烈なカタルシスを覚えていた。
福岡・親不孝通りから激情ロックンロールバンド「garass」が最後に登場。
彼らの存在感は、ステージに立った瞬間から群を抜いていた。観客はすでに前のバンドたちで熱を帯びていたはずだが、その熱を一気に塗り替え、さらに深く強く押し上げていく力を感じた。
渋く歪んだギターのイントロから始まった『わからない』
音が鳴り出した瞬間、空気がガラリと変わった。鋭く研ぎ澄まされたリフは観客の耳を切り裂きながらも、その奥にブルースの香りやオルタナの影を感じさせる独特の色気を放っていた。ガラスのように脆くも鋭利な音像は、バンド名をそのまま体現するかのようだ。
2曲目『Riot,Riot,Riot』ではテンポを大きく上げ、ボーカルが鋭いライムを滑らせる。言葉が銃のように飛び出し、リズムと完全にシンクロしながらフロアを切り裂く。
MCではキサキ(Gt/Vo)が「7月にEPをリリースしまして、そのツアー中ということで来てくれた皆さん、出てくれたバンドに感謝を伝えたいです。初めましての箱で初めましてのお客さん。名前だけ覚えて帰ってくださいなんて言いたくないわけですよ。ここに立っている以上、僕たちの全てを届けるので最後までよろしくお願いいたします。」といい、MVにもなっている『8月32日』を披露。
彼らの強みは1曲だけの爆発だけではない。曲間をほとんど置かず、シームレスにサウンドを繋いでいく。その流れのなかで楽曲同士が呼応し合い、ライブ全体がひとつの長大な組曲のように聴こえるのだ。
楓(Ba)の響かすベースの低音はどんなに展開が激しくても軸を失わない。うねるリズムが常にバンドの中心にあり、Risa(Dr)のドラムビートと絡み合い、地を踏みしめるような重みを生み出していた。
混沌のようでいて、全てが一糸乱れぬ精度で噛み合う。まさにgarassだけにしか作れない音世界と言えるだろう。
福岡・親不孝通りから始まった物語は、この夜下北沢に確かに根を下ろした。garassのサウンドは都会の雑踏にも、1人の夜にも馴染む。
これからのシーンに間違いなく食い込んでいくであろう彼らの未来がステージで鳴らされるとき、それは唯一無二の体験となるだろう。
garass 1st EP
「8月の暴動」
各音楽配信サービスにて配信開始
Instagram:https://www.instagram.com/garass_official