<ライブレポート>NEWWW vol.31ーー与謝野/cephalo/SleepInside

<ライブレポート>NEWWW vol.31ーー与謝野/cephalo/SleepInside

WWWが手がける新世代のアーティストを紹介するライブ・シリーズ『NEWWW』が7月30日(水)にWWWで開催された。

第31回目の出演アーティストは「与謝野(safmusic&浅井杜人) 」「cephalo」「SleepInside

ジャンルの違い、表現方法の違いはあるものの、彼らが表現者であることに変わりはない。

前回と同様にWWWが手がける上質で新感覚を体感できるイベントは、今回も3つの世界観が見事に溶け合い、それぞれの特徴や魅力が顕著に現れていた。

新世代の表現者たちが交わった上質な夜を本記事でお届けする。

前回のNEWWW

<ライブレポート>NEWWW vol.30ーーWepeg/烏兎 -uto-/眞名子新

音楽と文学の融合をトラップで表現した「与謝野」

photo by @soutarou_shimizu

ステージに2人の影が現れたとき照明は最小限。観客の視界は限定され、耳が冴えた。

1曲目『DOGURAMAGURA』この幕開けは、音楽というより目に見えないものとの接触に近かった。低音が床を這い、「与謝野」の2人が織りなす楽曲は、まるで脈を打たぬ心音のように沈黙すれすれの緊張を走らせる。

浅井杜人の声は地の底から掘り起こされたような重さを伴い、言葉ではなく、沈黙の輪郭をなぞるようにして始まった。

続く『夏目漱石』『ミヤザワ・ケンジ』では、彼らが扱う“文学”(音楽)の意味が明らかになる。単なるタイトルの引用ではなく、過去の言葉たちがいまここに“召喚”されていた。

ビートはサンプリング的でありながらもオリジナリティーを感じられ、構造を巧妙に捩じ曲げる。観客たちは物理的には沈黙していたが、その沈黙には熱があり、交信があった。彼らの楽曲は、聴く者に“自分の中の何か”を問い直させる。その余白の在り方が、極めて現代的で暴力的とさえ思える。

MCではsafmusicが「NEWWW出れて本当に嬉しいです。与謝野って名前もそうだし、色々な本や作品から曲名とかに採用していて、次やる曲はスイミーって作品にfeelして作った曲なんだけど、学校とかでもずれちゃう時とかあるじゃん?それでもそんな自分を認めてあげられるような曲です。聴いてください」といい『swi me』を披露。曖昧な毎日に色をつけるように鮮やかに映し出された。

who28の楽曲である『浮雲』では本人が登場し、ステージに花を添える。幾層にも重ねられたボーカル処理とオートチューンが現実感を剥ぎ取り、実に美しく、軽快に過ぎ去っていった。

『みだれ髪』では微かに滲むノイズ、湿ったギターの残響。浅井の声が少しだけ上ずり、まるで誰かを呼ぶようだった。けれどもその“誰か”が存在していたのかどうかも不確かだったように感じる。

8曲目『銀色夏生』を披露。ユニット名の由来でもある“与謝野晶子”や“銀色夏生”の文学的世界を透かしながらも、音は過去に留まらなかった。むしろ「現代」という混沌に対し、ひとつのアンチテーゼとして文学的想像力を武器にしているように思えた。

無機質な空間に、手触りのある言葉が響く。このズレと計算された構成。この違和感こそが与謝野のライブ体験の核だったように思える。

ラストの『鳳城』は、まるで昇華のようだった。タイトルに含まれる“城”とは、誰の、何の象徴なのか。声も音も徐々に薄れ、最後は照明すら沈んだ。残ったのは、なぜか風のような感触だった。与謝野とバックDJ Leisuが支配した空間で我々は優しくゆっくりと踊った。(後日談:『鳳城』(読み:ホウジョウ)とは、safmusicと浅井杜人の2人がよく通っていた中華料理屋の店名から名付けた楽曲とのことだ)

与謝野は、“音楽”と“文学”を無理に接合しない。ただ並列させる。その結果生まれる“摩擦熱”こそが彼らの真価のように感じる。

この夜、WWWという都市の暗がりで、“言葉”は再び“音”として蘇生した。そしてそれを目撃した者たちもまた、自らの“言葉”に問い直すことになるだろう。

safmusic:https://linktr.ee/_safmusic_

浅井杜人:https://lit.link/asaemorito

心の深い位置に染み込んだ「cephalo」の音

photo by @soutarou_shimizu

3組の出演者の中盤を担ったのは、結成からわずか1年足らずの新鋭バンド「cephalo」

沈黙と音の間にある“間”が、こんなにも美しく感じられるとは思わなかった。静かに始まり、静かに終わる。その間にあったのは、喧騒でも感情の爆発でもない。まるで一本の映画を観たあとのような、深くゆるやかな余韻だけが残った。

ステージに4人が揃ったとき、会場にはすでにある種の“静けさ”が流れていた。それは観客の緊張ではなく、むしろ期待と信頼の気配だったのかもしれない。

1曲目『夜窓』が始まると同時に、照明がゆっくりとにじむように上がり、 fuki(Gt/Vo)の歌声が夜の帳のように広がる。透き通るようなその声は、遠くの景色を指さすようでいて、実際にはずっと手元を見つめているような、二重のベクトルを孕んでいた。

続く『ルート225』『unnamed planet』では、cephaloというバンドの“設計図”が徐々に明らかになる。インディーロックを基盤にしつつ、ギターとベースの音像にはポストロック的な緊張感があり、ドラムのリズムも直線的でありながら揺らぎを残す。

どの音も“余白”を活かす方向で構成されており、音と音の間が“呼吸”として機能しているのが分かる。

特にイントロでは、まるで宇宙空間を漂う粒子のように浮遊していた。そこに重なるfukiのボーカルが、意味を明言しないまま、聴き手の心象風景の深層へ静かに入り込んでいく。まさに“心耳”というより、“脳と心”で聴く音楽だった。

4曲目の『時化空』はこの夜、もっとも強い“密度”を放っていた。曲そのものは決して激しくはない。だが、fukiの吐息に近い歌声と、オオタキ(Ba)のベースラインが対話するように進行する展開は、聴き手の時間感覚を静かに破壊していく。

風景が音に変わり、音が感情を呼び起こす。言葉では説明できない感情の波が、ひとつずつ捲れていくような時間だった。

そしてラストの『NocturnE』では、“夜”という概念をまるごと音楽にしたような楽曲。オオマエ(Gt)が刻むリズムはまるで鼓動そのもので、ベースの一音一音が心臓の奥に触れる。そしてfukiの歌声が夜の天井を滑る。

暗く、感情が激しく波打つ夜を表現し、圧倒的な“真実の感覚”を残した。

cephaloのライブは、音楽を“浴びる”というより、“触れる”に近い体験だった。演奏はシンプルだが極めて精緻で、音を削ぎ落とすことで逆に浮かび上がる構造があるように思える。

その削ぎ落とされた音の隙間から、観客それぞれの記憶や情景が自然と滲み出てくる。映画を観るような、という比喩はまさに正確で、彼らの音楽には“起承転結”があり、無言の脚本が存在する。

cephaloは今、言葉よりも先に“音そのもの”で語る力を持った稀有なバンドだ。彼らの静かな波は、この夜確かに観客ひとりひとりの深層に触れ、cephaloの控えめな“力強さ”を体感した。

公式X:https://x.com/cephaloband

公式Instagram:https://www.instagram.com/cephaloband

鬱屈とした日々と愛をブレンドした「SleepInside」

photo by @soutarou_shimizu

この夜、最後にステージに現れたのは、2018年に結成し、下北沢を中心に活動する「SleepInside」

観客からの「愛してんぞー!」の掛け声で登場したSleepInsideは、WWWという都市の中心地の夜を背景に、彼らにしか表現できないロックンロールを提示した。

1曲目は『検査キット』なんとも異質なタイトルに戸惑いそうになるが、イントロが始まるとすぐに、“体温のある違和感”が観客の心拍とリンクする。シンプルなバンド編成、装飾を削ぎ落としたアレンジ、そのどれもが“素”の音楽を表現しているようだった。

SleepInsideは“現代”という名の病を引き受けているバンドのように感じられる。モチヅキ(Ba)の音が擦れ、八月のニュース(Vo/Gt)のボーカルが紡ぐ、目に見えない焦燥のような感覚が空気中に立ち昇る。それは鋭さというよりも“やさしい刃物”のようだった。

2曲目には『要塞都市』を披露。都市生活の持つ冷たさと、そこで生きる人間の孤独を露呈させるような鬱屈を吐露したように歌う。

演奏はシンプル、だが正確で美しい。ギターが歌うように旋律を弾き、ドラムとベースがそれを淡々と運ぶ。過剰な演出はない。だがその“素”が研ぎ澄まされているからこそ、どの曲にも明確な芯がある。SleepInsideの音楽は、繊細さを持ちながらもライブ空間で“肌触り”を伴って鳴る。それが、彼らの持つ強さであり、聴くものを惹きつける魅力だ。

MCでは八月のニュースが「大きい会場でSleepInside観るの初めてです!って言ってくれる方がいたんですけど、俺たちも初めて(笑)今日楽しみにしてました!」と挨拶を残し『Medical Care』を披露。

中盤に差し掛かり『カルト宗教』を4曲目に披露。強烈なタイトルのこの楽曲では、八月のニュースの歌に少しだけ熱がこもる。彼らは怒りや違和感を“激情”ではなく“輪郭”として表現しているように思える。

演奏が重くなることなく、その中にある毒素だけが滲んでくるような、不思議なバランスを上手く乗りこなしていた。

SleepInsideにとって“盛り上がる”とは、ただのテンションではない。心の奥に蓄積された吐き出しずらい想いが、音によって少しだけ外へ押し出される。その瞬間を静かに待ち、丁寧に差し出してくれるバンドのように感じた。

最後に『飛べない天使の羽を切った』を披露。この曲名を見ただけで、ある種の痛みを想像した人は多いかもしれない。そしてその想像は、間違っていなかった。

歪んだ愛の正体を赤裸々に歌うこの楽曲では、屈折した関係をストレートに表現している。

曖昧にも誠実にも見える彼らの楽曲は、聴くほどにゆっくりと熱を帯びていくようだった。悲鳴ではなく、ただ“傷”の在処を指差すような歌に、照明も淡くステージがまるで部屋の隅のように感じられたのは、彼らの音に、我々が親近感を感じていたからだろう。

鳴り止まぬ歓声と拍手に応え、再度登場したSleepInside。アンコールに『apartment』を披露。歌詞の内容と音の構成の全てが“居場所”という言葉を優しく肯定していた。

都市の中で、あるいはインターネットの中で、バラバラになった心たちが、それでもどこかで繋がっていられるように。そんな“祈り”のようなエンディングだった。

SleepInsideのロックンロールは、古くも新しくもなく、ただ「いま、ここで」鳴っていた。そしてその音には、疑いようのない愛らしきモノが宿っていた。

公式HP:https://potofu.me/8ty6qywg

photo by @soutarou_shimizu

『NEWWW vol.32』

日程:2025/9/29 (月)

時間:OPEN 18:30 / START 19:30

会場:Shibuya WWW

料金:¥1,000 (税込 / スタンディング / ドリンク代別)

出演:Meg Bonus/sysno/Veg

チケット:e+:http://eplus.jp/newww-vol32/

Livepocket:http://t.livepocket.jp/e/newww_vol32

公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/019055.ph

INFO:WWW 03-5458-7685

WWW/WWW X 各種リンク

公式HP:https://www-shibuya.jp/

X:https://x.com/WWW_shibuya

Instagram:https://www.instagram.com/www_shibuya

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この記事を書いた人

執筆
高島よしお
1997年生まれ/東京都出身 趣味は「フィクション」と「散歩」 年間通して映画を平均400本観ます 音楽は平均1200時間聴きます