2025.03.26
言葉のない音そのものがストーリーを紡いでくれるインストゥルメンタル。今回のテーマは「邦楽インスト曲」
コンセプトアルバムなどに、時折みられるインストだが、歌詞やボーカルがないからこそ、メロディーやリズムにいっそう心が引き込まれる、そんな不思議な体験がここにはある。
まるで映画のワンシーンを見ているかのような浮遊感から、華麗なプレイが鋭く胸を突いてくる即効性のあるインストまで多種多様。
インストの可能性は限りなく広い。そんな魅力的な5つの楽曲を紹介していく。
まずは「toconoma」が放つ『relive』
彼らは、日本のインストバンドシーンで確かな存在感を誇っており、特にキーボードとベースの掛け合いがつくり出す軽やかさと甘さの絶妙なバランスが魅力だ。
この曲は、そのバンドのカラーをしっかりと体現した一曲です。淡いイントロに浮かび上がるメロディーは、どこか懐かしいような、でもどこか新鮮な響きを秘めている。
サビに入るとゲーム音楽を彷彿とさせるような電子的なサウンドで、気づけばリズムに合わせて身体が揺れ、心の奥からふっと癒やされる不思議な余韻が残る。
ボーカルのないインストがゆえに、曲が終わった後も物語だけが余韻として脳裏に広がっていく。そんな体験を味わえるトラックだ。
続いての「SANOVA」の『二角形』は、鍵盤と情熱的なドラムを中心とした華麗なアンサンブルが聴きどころ。
クラシックピアノの流麗さをベースにしながら、ジャズやフュージョンのエッセンスを散りばめているのが特徴的だ。
タイトルである“二角形”は、存在しないはずの形を示唆しているように感じられ、抽象的なイメージを音で具現化しているように感じる。
畳み掛けるようなピアノの旋律と、その熱量を増幅させるようなリズム隊が織り成す変拍子ぎみな展開は、疾走感と幻想感の両立を見事に実現した。
クライマックスでは、はっとするようなコード変化が入るあたりが最高にスリリングだ。
声のない曲に、人の息遣いが感じられる、そんなドラマティックな演奏が聴き手の想像を掻き立ててくれる1曲だ。
このバンドは、インストでありながら、どこかロックバンドらしいエッジや攻撃性をも持ち合わせており、グルーヴィかつタイトな演奏が特徴だ。
『VIP』は序盤こそ落ち着いた雰囲気を醸し出しているものの、中盤から急にパンチのあるリフが飛び出したり、巧みなリズムチェンジでリスナーを翻弄させたりと、予測不能な展開に耳が離せなくなる。
まさに「脳内麻薬炸裂のハイテンションチューン」と言える。
ジャズやファンクなど幅広い音楽要素をミックスしつつも、どこかロックの荒々しいスピリットを感じさせるのがこの曲の聴きどころだ。
「Marmalade butcher」の『XXXphobia』は、ダークかつアーティスティックな音風景が印象的だ。
曲のタイトルからも、何か恐れやトラウマを想起させるようで、サウンドにもそれがしっかり投影されているように感じる。
爽やかなギターのアルペジオが空間を不気味に染めていき、次第にビルドアップされていく音楽で聴く者を不穏な世界へと引き込む。
途中で入るブレイクダウン的なパートが、まるで息継ぎのできない深海に落とされるような衝撃を与える。
インストだからこそ表現できるこのダークメランコリックな世界観は、少し尖ったサウンドを求めている人に刺さるのではないだろうか。
1分37秒と短い曲ではあるものの、タイトルの通り、「音楽とは何か」という大きな問いかけを内包したような哲学的なサウンドが特徴的だ。
繊細なピアノのメロディーと、癖になるシンセが織りなすハーモニーは、いわゆる空間系エフェクトがしっかりと使われている印象で、どこか浮遊感のあるアンビエント寄りの雰囲気を感じる事ができる。
歌詞がなくとも言葉をしっかりと語っている音楽、そう表現しても過言ではないほど、何か大切なメッセージを感じ取れる。
或いは、その答えは聴き手それぞれの心の中に隠れているのかもしれない。
今回は、言葉をもたない5曲を選んでみたが、音が語る物語の奥深さを改めて感じられたかと思う。
優しい音が生み出すメロウさ、ちょっと不穏なムード、力強いアンサンブル。それぞれが様々な情景を脳裏に描かせてくれるのがインスト曲の醍醐味。
派手なサビで一気に盛り上げるのも音楽の一つの良さだが、声なき音が紡ぐストーリーをじわじわと噛みしめるのも、また格別な体験になるはずだ。
夜のひとときや、ふと余白のある時間に、これらのインスト曲を耳にしてみてほしい。きっと新しいインスピレーションや発見が待っていることだろう。
マインドセットをする為、インストをディグってきます。DigOut編集部のよしおでした。ではまた!