2026.07.02
ここまで歌わせる音楽隊だったのか。こんなにもスケールの大きい音楽を鳴らしているバンドだったのか。レぺゼン京都の4人組・the engyのイメージがまたひとつ更新される1日だった。それが2026年5月29日(金)に東京・Zepp Shinjukuにて開催されたワンマンライブ「UP!!!」である。4月にリリースしたEP『I’ve Got Something For You』を手土産に仙台と大阪、東京を巡ったツアーの最終日、彼らは昨年のツアー「C.U.T.」のファイナル以来、1年ぶりにこのステージへの凱旋を果たすと同時に、ますます愛に満ちたバンドへ成長を遂げた姿を示してくれた。
文・横堀つばさ
「Zepp Shinjuku、調子いかがですか!待ちに待ってくれてましたか。楽しんでいってくれますか!」という問いかけで幕を開けるや否や、飛び込んできたのは熱唱に次ぐ熱唱だった。1曲目は『Crying Dancer』。山路洸至(Vo/Gt/Prog)のエッヂーな歌声と境井祐人(Dr)のズンズンと込み上げるバスドラムで基盤を形成したところで、山路がかがみ込んでフロアを見つめれば、クラップが走り出す。導かれるクライマックスでは4人の歌唱がもつれ合い、爆音の中で踊り明かす一夜へ案内していく。自主レーベル・エビバデレコーズの狼煙として編み上げられたこの歌は、〈音楽はうるさいくらいがいいんだ キスをするにはちょうどいい 溢れ出す涙はミラーボールで〉という1行を筆頭に、「悲しみを吹き飛ばし、喜びを謳歌するためのダンスフロアを築き上げたい」というthe engyの野心を染み渡らせた作品だったわけだが、今となっては、彼らの音楽に対する価値観と本質的な愛の形状を表すステートメントとしても聞こえてくる。踊り、キス、抱擁。肉体的かつ原初的な行為へ視線を注ぎ、抑圧されていた感情を真摯に掬い上げんとしてきた4人の至上命題が実現しつつあることは、ミラーボールの下で泳ぐ無数の手を見れば一目瞭然だ。
『With You』を続けたのち、「伝わってますか、エビバディ!」と投下した新曲『UNTRACK』も本流は変わらない。〈Oh.Oh.Oh~〉と繰り返される熱唱だって、パンパンにリリックを詰めてから〈未来はいつもUntracked〉の1節で会場を波立たせる手法だって、アンセムと名付けるほかないだろう。バックに映し出された青空の映像は、チャントが雲間を突き破った結果、現前に広がった光景のようで、「僕らに新しい景色を見せてくれた『UNTRACK』に拍手を」と語るのも納得である。
のっけから広壮な楽曲群を連打したthe engyであるが、生来彼らは全員で歌い、全員で叫ぶバンドではなかった。むしろ、洗練されたサウンドメイクとするりと抜けていくボカリーション、心地よく耳に馴染む英詞によって、都会的なムードを演出してきたと言っても過言ではない。もちろん、その血液は「世界で1番暑い夜にしませんか?」とドロップした『Not Today』や、「もっともっと絡まり合いませんか」と官能的に招待した『Anymore』にドクドクと流れているものである。しかし、〈君しかいらないのにな〉(『Not Today』)の1ラインにむさ苦しいほどのパトスを注いでいた通り、〈Anymore…〉の合唱に濱田周作(Ba)がグッドサインを送り、ハンドワイパーを巻き起こしていた通り、無機質な表情は皆目無し。背後でコポコポと水泡が浮かんでは消えた『IceCandy』で、「歌詞が思い出されへんから、フリースタイルで行こかな」なんて突如その場でリリックを書き足していく様も極めて人間的ではないか。

こんな変化を象徴していたナンバーが、フォーンと次第に輪郭を帯びていった藤田恭輔(Gt,Cho,Key)のギターから投入された『She makes me wonder』だった。淡いピンクの照明の中、4人は目を見合わせ、一打一打を叩き込んでいく。客席に背中を向けていた山路が真っ直ぐにファンと対峙すれば、足下から天井へと光が昇っていく。そこへ響き渡るシンガロングを聴いて、ハッとする。この拡張のプロセスは、the engyの行路とオーバーラップしているのだと。全く異なるルーツを持つ4人が、山路の産み落とす作品を唯一の共通項として出発したこの集団は、メンバーそれぞれの「おもろい」を地図に音楽航海を続けてきた。「踊れる」を絶対のルールとして、ファンクやR&B、ダンスを下地にしたミクスチャー絵巻を描いてきた。そんな中、さらなる音楽的探求を見据え、自治と自走の秘密基地を完成させたことで、the engyは市井に生きる1人の人間としての喜怒哀楽を、新鮮なまま手渡すようになったはずだ。つまり、そのタイミングで彼らは真にオーディエンスと向き合ったとも言える。その結果が『Night Kids』のヒットであり、神奈川・Kアリーナ横浜でのイベント出演であり、パンパンのZepp Shinjukuだ。良い音楽だけを、エバーグリーンな輝きを放つ旋律だけを追求してきた彼らは、今や君の肉声を両の手を広げて待っている。「何でもありってことやな。愛さえあれば、何でもありってことやな」なんて台詞は、こうした態度変容の表れでしかない。
こう考えれば、『Love Songs』をエンディングに据えた理由も一意に定まるだろう。〈まるで終わる気配のないアンコールみたいに ラブソングが止まらない〉という歌詞はこの場所へ捧ぐ愛おしさの流露だし、〈君がいるだけで ラブソングが止まらない〉に合わせて観客を指差すのも当然。無音の中を美しきシンガロングで満たし、金色のミラーボールを回して、ステージを去った。
アンコールの直前、山路は「自分たちのスタンスを話したい」と前置いて、こう語った。
「願いが込められた音楽以外は、やりたくないんですよね。音楽っていうのは、どうしようもないヤツのところに深く届くと思うんです。どうしようもないヤツの胸の中に、音楽は流れ込んでくるもんなんですよ。だから、どうしようもなくなったら、音楽を聴いてほしいです。そしたら、当たり前のことを僕らは歌っているんで。とにかく日常のことだけを歌い続けていきます。そして、それを聴いて、あぁ人生は悪いもんじゃないなって思い出してください。音楽が皆さんの人生を変えてくれるわけじゃない。音楽が忘れてた楽しいもんとか、大切なものを思い出させてくれるだけなんです。疲れ切って、目を閉じたあなたの耳に触れるものが、いつも音楽でありますように」
the engyが歌を続けているのは、どん底の人生に革命を起こすためじゃない。そこにあった愛と、身体が覚えている歓喜を拾い上げるため。「踊らせたい」の根幹に眠る最たる祈りを口にしたところで届けられた『Night Kids』と『Hold You Again』は、あなたと手を繋ぎ、いつまでも生を共にするための楽曲だった。「心の底から愛しています」と飛びきりの愛を伝えてツアーを締め括るまで、彼らはラブソングを鳴らし抜いていたのである。
the engy LIVE TOUR 2026 vol.2 “HIGH HOPES”
◉12/5(sat)【大阪】心斎橋BIGCAT
◉12/8(tue)【東京】LINE CUBE SHIBUYA
チケット:https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=566635
Instagram:https://www.instagram.com/_the_engy_/