2026.01.05
2025年12月25日(木)、東京・渋谷TOKIO TOKYOにて2023年7月に結成されたオルタナティブロックバンド・前髪ぱっつん少年が自主企画「全人類ぱっつん化計画 Vol.3」を開催した。
2025年3月に始動して以降、3度目の開催となったこの日のゲストは、G overとété。クリスマスの渋谷で3組が衝突し、2025年の総括と2026年の展望を露わにした一夜の模様をレポートする。
文:横堀つばさ

2025年6月以来、前髪ぱっつん少年と2度目の共演となるG overは、『噂乃平成ガール』をオープニングナンバーに選択。祭囃子を喚起させるYoki(Gt)のリフと、Aoi(Ba)が奏でるメタリックな質感のスラップ、がなり声の一歩手前みたいな鋭利さと巻き舌がシンボリックなNao(Vo)の歌唱が響いたかと思えば一変、<頑張れ私!>とキュートなコールが巻き起こっていく。
時にニヒルに、折にかわいらしく、ハードな人生をゲームみたいに乗りこなそうとしていく4人の筆致は、<私とあいつで じゃんけんバトル>なんて1ラインにも滲みまくっているわけだが、Rock(グー)とScissors(チョキ)、Paper(パー)の頭文字を冠した『RPS』に顕著なように、彼らの楽曲にはじゃんけんというモチーフが度々表れる。
掲げた拳をピースサインに変えたり、開いてみたりする観客の様子からは、この主題が一緒に遊ぶための共通言語として機能していることが窺えるけれど、G overがこの遊びを用いている理由は決してそれだけではないはず。

ここで最も重要なのは、じゃんけんの結果が神のみぞ知るものであり、運否天賦であることだろう。思えば、Ibuki(Dr)が怪しげに叩く3拍子のビート上でこぶしを効かせたボーカリゼーションが泳ぎ回る『本性』の<誰のものでもない人生だから ひよってた自分に逆襲を>の1行も、マッシブなバスドラムが歌にならないほどの咆哮を補強する『最終戦線』の<自ら僕が僕を撃つ じゃあさよなら弱い自分へ>の1節も、規定と束縛だらけの現世を蹴飛ばし、自分自身で決定を下さんとしているもの。
つまり、じゃんけんなんて運命に委ねるのではなく、ラプラスの悪魔も知りえない判断を己の手で下せと彼らは歌っているのではないか。
ライブ終盤、「ひとつになって、盛り上がる曲です!」とドロップされた『No Thank you!!??』は、巻き起こしたハンドワイパーの勢いを借りて、そうした決定を正面から後押しするため、あまりにも英雄的なエネルギーを宿した1曲だった。危ういフィールを抱え、斜めから世間を捉えてきたG overだからこそ、逆説的に彼らが放つ応援歌はかすかな嘘偽りさえも存在していなかったのである。

<セットリスト>
1.噂乃平成ガール
2.DA・堕・だ・打・DANCE GIRL
3.RPS
4.アリス(Xmas ver.)
5.本性
6.最終戦線
7.Pulse120
8.No Thank you!!??
9.崩壊堕落サワー
ヘッドピーンからEMOの血統を感じさせる激情的なサウンドがフロアに充満する中、<これは音と言葉のみで 体現するニューエイジ>というリリックがやけに耳へと飛び込んできた。エンディングを飾った『Gate』は、この邂逅の場にてétéが刻もうとした自身の命題をハッキリと教えてくれたのだ。
そしてその主題をナチュラルに受け取れた事実は、オキタユウキ(Vo/Gt)が口にした「どこにいったって、やることはただひとつ。僕らを見せつけるだけだぜ」という言葉の実現を裏付けていたのである。

では、初めての対バンとなる前髪ぱっつん少年の自主企画で彼らが刻み付けたスタイルとは何か?まず挙げられるのは、開幕を彩った『Viscous』や、水滴が1粒ずつ落ちるようにしずしずと鳴り出した重低音が生命の拍動と芽吹きを可視化した『Over』を筆頭とする、流麗なアルペジオとヤマダナオト(Ba)が牽引するヘビーなバンドアンサンブル、息つく間もなく導かれる小室響(Dr)の肉体的な重量の付与であろう。
また、アプリの作動音をサンプリングした『言ゥ虎pia』をはじめ、電子音や同期の活用による時空間の拡大と、バーチャル化する社会に対するアンチテーゼの提示ももうひとつのテーマとして指摘できるのではないか。
いやもっと言えば、étéはこの2つの手法を前提にしながらも、双方の壁を積極的に逸脱し、マーブル模様を描いていったのだ。要するに、彼らがこのステージで実現したのは、バンドの生々しさだけにも、エレクトロニカルな音楽の無機質な手触りだけにも囚われない字義通りの自由であった。

「あくまでシリアス。一挙手一投足に意味がある」と投下した『Idiot』然り、激走するハイハットに追従する形で、語るように高速で言葉を紡いだ『Faithlessness』然り、淡々と挑発するような唱法とアカペラに類する切実な歌唱を自在に切り替えていったété。
何でもござれのプレイングで3人が届けたかったメッセージは、オキタが最後に口にした台詞に凝縮されているはず。「君は君なりにできることを一生懸命やってください」。彼らはその背中で、見事にこの思いを体現してみせたのだ。
<セットリスト>
1.Viscous
2.言ゥ虎pia
3.Fixed
4.youth
5.Over
6.Idiot
7.Faithlessness
8.おまえをゆるさない
9.Gate

前髪ぱっつん少年にとって、潮目と相成るステージだった。彼らは来たるべき変化の時に備え、バンドのストロングポイントを整理し、地図を改めて書き直したようである。
そんな3人の行く先を暗示していたのが、ライブ中盤に披露された2つの新曲だ。どこか気の抜けたスダリヒト(Gt)のギターを先頭に置いたレトロチックな音色とハイパーポップからの影響が見て取れる間奏が耳を鷲掴みにする前者と、ワンダーランドを想起させる柔らかなサウンドメイキングを主軸に据えつつ、シンセサイザーで地平を拓いていく後者。
これまでのディスコグラフィーよりも、一層混沌に潜んだ秩序を追求し、カオスをそのままパッケージングした2曲は、ややもすれば発散だけで終わってしまう危険性もあっただろう。しかし、彼らが新たに生み出したこの作品たちは、ドロップするやいなや左右に手を振る光景が会場に出現したように、間違いなくポップへとその天秤を傾けている。
この絶妙なバランス感覚の背後に存在しているのは、バンドとしてのスキルアップであり、コンポーザーを務めるずま(Ba/Vo)の常識を打ち破るフレキシブルな発想にほかならない。前髪ぱっつん少年は、サイズも形も異なるピースをバラバラのまま組み上げていく筆遣いを獲得したのだ。
とはいえ、3人は何もかもを一新しようとしていたわけではない。「前回の企画からやる音楽が変わってきていて。前髪ぱっつん少年の変わっていくことも、変わらないことも伝えたいです」と青白い光が差す中でプレイした『rural』でぶち込まれるドラムロールの分厚い雲を突き抜けるみたいな勢いはそのままだったし、オーシャンズ・ネ(Gt/Vo)が「素敵な夜にしましょう!」と誘った『ですく・ぽっぷ︕』のメロディーを排除しながらもファンを揺らす方法を考える立ち姿も同様。
考えてみれば、幕を切り落とした『CINEMA』の最初の1行は<変わらないこと 描きだすように フィルムに仕舞い込んで 忘れない、未だ>である。これまでオーディエンスと作り上げてきた記憶たちを丁寧に宝箱へと収め、次なる光の切り取り方を模索しようとするこのライブの目的は、冒頭にまざまざと示されていた。
ずまの「各々のクリスマスを楽しんで!」というシャウトから『シイクレットアンヴレラガアル』でゴールテープを切った「全人類ぱっつん化計画 Vol.3」
今回この企画にG overとétéを呼び込んだ意味とは、2組の手つきが前髪ぱっつん少年のこれまでとこれからとがリンクしていたからだろう。
この世をエンターテインメントに変換するために踊り狂おうとするG overの態度は『ですく・ぽっぷ︕』や『ハニィラヴ』とオーバーラップを果たしていたし、バンドサウンドとDTMの共存を志向するétéの筆法は特に新曲群と共鳴していた。
前髪ぱっつん少年はこのイベント全てを通じて、現在地を表明すると同時に、新たな音楽的土壌へ足を踏み入れようとしていたのだ。
<セットリスト>
1.CINEMA
2.暮らしにいてね
3.ですく・ぽっぷ︕
4.ハニィラヴ
5.新曲1(未発表)
6.ぷらぷりずむ
7.新曲2(未発表)
8.カレイド
9.リンカアネイト
10.rural
11.エンヴィ

2026.3.26(Thu)
前髪ぱっつん少年pre.『全人類ぱっつん化計画 Vol.4』
@渋谷Spotify O-nest
Act
前髪ぱっつん少年
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