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<Concept Playlist #9>「オシャレで屈強が正義」

DigOut編集部のよしおが選んだ楽曲たちをプレイリストにし、それに合わせて空想の物語を短編小説に昇華しました。

“音楽を通して物語を楽しむ”をモットーに作った「Concept Playlist」

今回のConcept Playlistは、友人と合流して古着を見たり、行きつけのお店でお酒を飲んだりしたい休日にピッタリです!

誰にも気を遣わず賑やかな日にしたい方、ここにあなたの答えがあります!

次はConcept Playlist#10でお会いしましょう!

オシャレで屈強が正義

音楽を流すと、少しだけ背筋が伸びた。鏡の前で軽く肩を揺らしてみる。角度を変えて、いつもより落ち着いた表情をつくってみる。

「……まあまあかな」

そんな一言をこぼして、今日の自分に小さく合格点を出した。イヤホンから流れるのは、最近作ったプレイリスト。

攻撃的だけど洒落てる。今の気分にピッタリだ。

タイトルは「オシャレで屈強が正義」

ド直球で不器用な感じが割と気に入ってる。

外に出ると、風が思ったよりも優しかった。ちょうどいい気温、ちょうどいい空気。待ち合わせの場所には、いつもの友達が立っていて、こっちに気づいて軽く手を挙げた。

なんでもないけど、それだけでちょっと楽しくなりそうな気がした。ふたりで歩きながら、適当な店を覗いたり、新しくできたショップに入っては試着したり。

何か特別なことをしてるわけじゃないけど、こういう時間が案外好きだった。

「このシャツどう思う?」

「おまえにはちょっと真面目すぎない?」

「だよな」

くだらない会話も、今日の音楽と一緒なら、少しリズムがいい。少し歩き疲れて、友人が働くコーヒーショップに立ち寄りコーヒを頼む。

店前に用意されているベンチに座りしばし休憩を挟む。この時間を共有できる友人はそうそういないなと友人と話しながらコーヒーを飲む。

日が暮れるまでは、まだ時間がある。それでも夕方の匂いが、どこかから少しずつ漂ってきた。

夜になり、いつものダイニングバーへ。そこは賑やかで、でも落ち着ける場所。いつも誰かがいて、何も考えずに座れる安心感があった。

「奥の席、空いてるじゃん」

「入るか」

ドリンクを頼んで、料理を適当にシェアして、乾杯の理由も特になく、ただグラスを鳴らした。

「今日の俺らにってことで」

「はいはい」

冗談を交えた乾杯のあと、音楽と笑い声が重なっていく。知らない人の誕生日の拍手に便乗したり、いつも良くしてくれる店員さんとの軽いやりとりで盛り上がったり。

夜って、こういうふうに始まるものだった。しばらくして、入口が開く気配がした。

「……あれ?あいつらじゃね?」

視線の先には、見覚えのある何人かの顔。よく遊ぶ友人たちが、別グループで入ってきたところだった。そしてその中に、前にちょっとだけ気になってた彼女の姿もあった。深く好きだったわけじゃない。でも、なんとなく気になる存在だった。

話すタイミングを逃して、そのまま何もなかったように時間が流れた人。彼女は最初こちらに気づいていなかったけど、こっちのグループのひとりが手を振ったことで、自然に距離が近づいた。

「席、空いてるからこっち来なよ」

そんな誰かのひとことで、ふたつのテーブルがゆっくりとひとつになった。彼女とは、特に深い会話を交わさなかった。けど、たまに視線が合って、どちらともなく逸らしたり、そんなささやかなやりとりが、妙に記憶に残る。

グラスが何度も空き、誰かが「もう一杯」と言った頃には、どこまでが最初のグループだったか分からないくらい、みんな笑っていた。

気がつくと、店内の照明が少し落ちていた。

「あれ……もう閉店?」

「やば、こんな時間か」

外はまだ完全に明るくなっていなかったが空気がどこか朝に向かっていた。何人かはタクシーを捕まえて帰っていった。

「おつかれ〜」「またね〜」と声が交わされて、残ったのは俺と数人だけ。音楽も止まり、水だけがテーブルに残った店内。

「ちょっとやりすぎたな」

誰かが言って、みんながうなずいた。店を出ると、静かな空気が肌に触れた。何かを後悔するほどじゃないけど、ちょっとだけ、静かな気持ちになった。

イヤホンをつけて、また音楽を流す。あのプレイリストの続きを。

少し重たいまぶたの奥で、ビートが弾ける。

「……まあ、そんな日もあるか」

信号を待ちながら、ひとりごとのように呟く。

それで、なんとなく今日が締まった気がした。

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