「作って歌ってを繰り返す。その繰り返しが私の思うバンドの健康的な姿であります」「どんな歌を新しく歌い、どこで歌うのか」
塩入冬湖(Vo/Gt)のこんなステートメントを添えて、FINLANDSが全国7都市を巡ったツアーが「一生涯TOUR」である。4月に配信リリースしたEP「しょせんの二人」を津々浦々へと届けたこの旅路は、2026年6月13日(土)に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて最終日を迎えた。
文:横堀つばさ
写真:endo rika
冒頭に記した挨拶からも察せられるように、FINLANDSは塩入の思考が露出した日報のごとき歌を、恋という心の運動を捉えた楽曲を生み出してきた。卑近な表現を承知の上で改めて言うならば、FINLANDSは、塩入のドキュメンタリーであり、日記であり、手帳である。加えて、随所で彼女が語っていた通り、最新作「しょせんの二人」は、この世界で過ごす誰かになりきったり、ドラマの登場人物を憑依させるわけではなく、隅から隅まで己のみを出発点とする1枚であった。
「結局、自分を救えるのは自分だけです。救いは自分の中にしかありません。今夜は全員で救われにいきましょう」と、〈わたし以外 わたしを救えない〉というリリックを翻訳したMCから3曲目に投下された『COME』。舞台上に設置されたいくつものネオンライトが水色とピンクに灯ったのち、混じり合っていく2つの肉体を彷彿とさせるように紫へ移り変わっていった『しょせんの二人』。ギターのフィードバックノイズが響く中、「あなたじゃないんだったら全て同じ。そう気づいた時に悲しすぎたので、そんな夜にテーマソングを作りました」と披露された『夜にテーマソング』。そして、真っ直ぐに歌い出した塩入のボーカルヘ愚直なアンサンブルがぶつかっていった『エンドロールタイマー』。「ただ、私が今まで生きてきた中で、覚えておきたかったり、大切にしたいと思ったこと。それを4つ選ぶとしたら何なんだろう。そんな風に思って作った4曲です」と話したように、自己決定に対する信念や行き場のない恋模様、この世界で煌めきを放つための決心が各所で音に乗せられていったのである。
それでは、現体制として8年目を迎えたFINLANDSが、このタイミングで心の輪郭をなぞるような歌たちを改めて手に取った理由は何だったのだろう。
写真:endo rika
その答えを明かしてくれたのが、『エンドロールタイマー』の直前に塩入が言い放ったこんなMCだった。
「私は守られる側の人間ではなくて、親だったり、子供だったり、周りにいる人だったり、何かを守っていく側の人間になったんだなって。そんな風に思います。子供と一緒にいると、この子のことは絶対に守らなきゃいけないと思うんです」
母になることでもたらされた決定的な変化を口にすると、彼女はこうも言葉を続ける。
「じゃあ、この子がいつか守る側の存在になった時、何がこの子を守ってくれるんだろうって思ったんです。私は、それが記憶だと思いました。形のない優しさや愛情、記憶が、私を最後の最後で引き戻してくれるんです。だから、私は誰かの最後の光でいれるように、生きていかなきゃなと思います」
そう、彼女は思い出を歌に閉じ込めることで、己にとっての、何よりリスナーにとっての防波堤であり続けようとしていたのではないか。そう考えると、この日披露された全21曲のそこかしこに、他者と共に過ごした憎ましくも愛おしい記憶がパッケージングされていることも腑に落ちる。
写真:小野正博
例えば、キュイッと喉を鳴らしながらハイトーンへ駆け上った先で〈こころが 離れていく事は寂しい事だ〉とうたう『HEAT』は、次第にぼやけていくあなたの輪郭をしたためたナンバーだし、だらだらと日々を延長するありふれた恋模様を刻んだ『しょせんの2人』に続いた『ナイトシンク』も同じスピリットを流し込んだ1曲だろう。「愛情の根源を言葉にできないこともあります。なぜ好きなのか、言葉にしなくても良い思いがあります。心がなんか良いってときめくなら、それだけで良いんじゃないでしょうか」と語った通り、メロディアスなベースラインに支えられて編み上げられていくのは、妄信にも近い愛を捧げた日々なのだ。
後悔や呪いに満たされたものとして過去を捉えるのではなく、自らの血肉となった代えがたい構成要素として、あの出会いやあの一夜を捉えていくFINLANDSの筆致。そのひとつの完成形とも呼べる1曲が、スマホゲームのランキングに突如として元恋人が現れたというエピソードを語ったのち、「彼が幸せそうで良かったなと思ったし、そう思えたのが嬉しかった。色んなことを教えてくれたから、不幸ではないことに嬉しさを覚えました」と演奏された『月にロケット』だった。
塩入がそっと弾き語り出したこの歌では、〈目を見て悲しみ合うことができる それだけだって幸せだったな〉と崩れさっていく関係の中に残存した愛の痕跡が浮かび上がっていく。〈あなたが涙に愛されることなく 生きれるように願いよ さぁ 飛んでいけ〉と、張り上げる寸前の歌声によって祈りを押し広げていく。一打一音を丁寧に鳴らしたのち、ギターをそっと響かせたラスト数秒。暗がりの中、広がる静寂へ投げ込まれた「ありがとう」の一言は、このラブソングの源泉となった君へと送られていたはずだ。
「どんなにぐちゃぐちゃでも、あなたと一緒に眠りにつくことができるなら、それ以上の日はないと思う。穏やかで当たり前で、そこら中にある、まどかなる日々を私たちはかき集めて生きていきます。また、そのまどかなる日々の先で会いましょう」
写真:endo rika
おもむろにクリーントーンのギターを爪弾き、こんなお別れの台詞からエンディングを飾ったのは『まどか』。大らかなビートの力を借りて、LIQUIDROOMを満たしていく塩入のボーカルは、この時代を生きていくための宣誓だったのだと思う。その裏付けに、振り返ってみれば、3曲目に添えられた『COME』のセルフラブ的な態度は、餌を待つひな鳥のように救いを待ち望むだけではいられなくなった変化の表象だったし、「全員が楽しいって思える夜を作れるんじゃないかって、私は私に期待している」「最後まで自分の楽しい方に進んでください!」なんてMCにもFINLANDSの自信と確固たる意思が宿っていたではないか。とある1日をカメラに収めた愛の歌が、遠き未来の光になる。大人になったのだから、自分の人生を己の手で前へ運ばなくてはならない。正しくあるよりも、優しくあろうとする。そんな音楽をFINLANDSは鳴らしていた。
写真:小野正博
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