スクランブル交差点の喧騒から少し離れた場所で、オルタナティブロックの鼓動が鳴り続けていた。
鋭く突き刺さる音も、優しく寄り添う言葉も、そのすべてが混ざり合いながら観る者の心に痕跡を残していく。
シーンの今とこれからが交差したOaiko FES。本記事では、渋谷で生まれた数々の熱狂とその瞬間を追っていく。
文:沖さやこ
simsiis@TOKIO TOKYO
写真:稲垣ルリコ
TOKIO TOKYOの幕開けは、仙台の風に包まれた。穏やかな音像から勢いを増していく「annabel」で爽やかに会場を彩ると、硬質な音色と陰を纏った柔らかいメロディのコントラストで魅せる「yodachi」、ポップネスが優しく響く「yawn」と、kocorono(Vo/Gt)のボーカルが映える楽曲を披露する。
彼女の淡い息遣いが活きた歌声は遠くの景色をぼんやりと見つめるような開放感があり、潤いに満ちたファルセットは空に浮かぶ雲を彷彿とさせた。
多彩なリズムワークを展開する「azalia」で会場を盛り上げると、MCでFunawatari Kotaro(Gt/Cho)は、大学生でこのバンドを結成した直後にコロナ禍に見舞われ、それに合わせた活動方法にシフトしたことを振り返り、Oaikoの「コロナ禍から1歩ずつ前へ進んでいくために“元に戻す”のではなく“適応”していく」というコンセプトにシンパシーを感じたこと、そのレーベルの初のサーキットイベントに参加できたことへの喜びをあらわにする。
その後披露された「pageant」と「cycling」は、バンドが様々な思いを抱えながらも困難を乗り越えてきたことや、似た志を持つ同世代の存在への敬意が感じられる、純度の高い演奏だった。
公式HP:https://simsiis.jp/
Hammer Head Shark@TOKIO TOKYO
写真:稲垣ルリコ
国内外のフェス出演や「CDショップ大賞2026」入賞など、次々と功績をたたき出しているのは4人の実力とポテンシャルが拡大し続けているからに他ならない。それを証明する目覚ましいアクトだった。
4人が順々に音を重ねていくと、そのままグランジサウンドが効いた「アトゥダラル僻地」へとつなぎ、「魚座の痣」では魂をねじり出すながいひゆ(Vo/Gt)のボーカルが会場を圧倒する。破壊音にも近い爽快かつ獰猛な演奏が重なることで、そのエネルギーは際限なく膨らみ続けた。
福間晴彦(Dr)が「SNSやネットが追いつけないスピードで、大きい音で届けに来た」と堂々と告げると、ながいは「たくさんバンドが出るなかで来てくれてありがとう。でもわたし(今日の出演者で)このバンドがいちばんかっこいいと思ってるわ」と照れ笑いのなかに自信を覗かせる。
そしてロックバラード「園」を情感豊かな演奏とボーカルでスケール大きく色づけ、ラストに今月末リリース予定の新曲「ぼくらふたりきり」を届けた。轟音からは泣き叫ぶような感傷性と果敢に突き進むような鋭い気魄がとめどなく溢れる。音の隅々まで迸る美しく気高い野心が、観客一人ひとりの心を震わせた。
公式HP:https://hammerheadshark.studio.site/
Enfants@TOKIO TOKYO
写真:稲垣ルリコ
近寄りがたい威厳を纏いながらも、リハの時間が余ったという理由で予定外の楽曲を披露したり、開演時間まで観客を巻き込みながらメンバー同士で他愛のないMCをするなどして会場の空気をあたためるというサービス精神も持ち合わせている。本編でもそんな彼らの二面性を楽しむことができた。
薄暗いライトのなかグルーヴィーなミドルナンバー「Dying Star」で口火を切ると、そのままダークでユーモラスな「Punk Head」へとつなぐ。松本 大(Vo/Gt)も観客を煽り、耽美でありながらも泥くさく痛快な音像でもってフロアを躍動させた。
グランジサウンドが効いた「HYS」ではサビで観客から盛大なシンガロングが起こり、松本はEnfantsとあまり馴染みがない観客にも「ルールわかった? みんなでイェーイ!って言う曲。でっかい声聞かせてくれよな!」と呼びかける。バンドも観客の歌声にシャウトや熱いギターソロで応え、その後も歪んだ音色がすがすがしいロックバラード「星の下」、青春の景色を描くポップでエモーショナルなギターロック「Kid Blue」、硬派でエネルギッシュな「Play」と走り抜けた。ドラマチックで多彩な30分。バンドの懐の広さに唸る。
公式HP:https://lesenfantsdanslalune.com/
sidenerds@WWW X
写真:タカギタツヒト
エモ、マスロック、シューゲイザー、ハードコア、グランジなど、共通項を持ったバンドが集結するOaiko FESにおいても、雅(Vo/Gt)のスウィートであどけないハイトーンボーカルは大きなフックとなっていた。1曲目「わすれたい」からテクニカルで太いリズム隊、きめ細やかなギタープレイが交錯し、抜けのいいボーカルがそれらを一気にキャッチーにまとめあげる。導入を挟んで颯爽と「透明な石炭」へとつなぎ、感傷性とポップネスを併せ持つ「エコーチェンバー」や「じぶんかって」では胸のうちに巻き起こるやるせなさをダイナミックに表現した。
4人はその後もノンストップでライブを展開させる。インタールードから「風邪」で衝動的に走り抜け、「片喰」では雅とねぎしのはん(Gt)が向き合ってギターを弾くシーンも会場を沸かした。「☆。.:*・゜」では感情の機微を隙の無いリフレインや轟音に乗せ、胸を締め付けるメロディが印象的な「混ざる」ではバンドの音に突き動かされるようにフロアに次々と力強い拳が上がる。そこからなだれ込んだ「入水」はまさに情熱的なエンドロールだった。自分たちの音楽に没頭しながら演奏する4人の無垢な姿が、いまも脳裏に残っている。
公式HP:https://www.tunecore.co.jp/artists?id=833816
宇宙ネコ子@TOKIO TOKYO
写真:mizu
サポートメンバーを3人加えた5人編成で登場すると「Virgin Suicide」で幕を開ける。ねむこ(Gt)は通常通りフロアに背を向けて床に座ってギターを弾くというスタイルで、kano(Vo)はピンボーカルでパフォーマンスをした。コードワークやメロディは明るく柔らかい印象を与えながらもどこか物憂げなムードが漂い、穏やかに会場を包み込む。「部屋」のメランコリックなポップサウンドとkanoとねむこの作るソフトなハーモニーは、昼から様々な爆音と轟音を浴び続けた観客たちの身体に瑞々しく染み渡った。
MCではkanoが「楽屋でお酒を飲みすぎてお手洗いに行きたい」と話し、可憐な歌声とのギャップから観客も驚き混じりに笑う。「Like A Raspberry」では彼女のほろ酔いも手伝ってか、ロマンチックな浮遊感が華やいだ。その後はねここが敬愛するART-SCHOOLの「LOVERS LOVER」のカバーを披露する。原曲アレンジを踏襲した演奏からは、影響を血肉にしていることを立証するしなやかな躍動が生まれていた。最後に「君のように生きれたら」を演奏し、会場は幻想的なムードで満たされる。夢うつつの無重力を漂うような30分間だった。
公式X:https://x.com/universe_nekoko
urema@TOKIO TOKYO
写真:稲垣ルリコ
2025年に約8年の時を経ての再結成とOaikoへの所属を発表し、2026年には東名阪ワンマンツアーの開催など精力的な動きを見せる彼らの現在位置を観測できた。再結成後第1作目となる「暈けた脳」でライブをスタートさせ、緩急を効果的に操るドラム、耳を劈くような不穏な轟音を繰り出すベース、メランコリックなギターとメロディが織りなす絶妙な不調和が、楽曲が描く朦朧とした様子を克明に映し出す。「重力と意識」は毒が全身に回るようなスリリングな音が生まれ、壮大な音像を作った導入から続いた「ピアノのある部屋」では浮遊感のあるギターと流麗なメロディが美しい波を作った。音に宿る緊迫感は悪夢にうなされるような、はたまた暗闇に迷い込むような感覚を与え、息を呑む。
「さむいさむいこおりのなか」は一音一音に通う儚さと激情、寂寥感が歌詞に綴られた感傷を際立たせ、最後のシャウトもとどめと言わんばかりに観客の心を突き刺す。「永遠の森」では抒情的なメロディと性急なビートのコントラストが閉塞感を際立たせ、仄暗い空気を纏ったままライブは終了した。ノンストップで演奏し、挨拶以外のMCはなし。楽曲の世界を生々しく表現することに集中した、鬼気迫るステージだった。
downt@TOKIO TOKYO
写真:稲垣ルリコ
間違いなく2020年代の日本のオルタナティブロックシーンの代表格のうちの1組である。それは3人がただただ途轍もない集中力を注いで、自分たちの美しいと思う音で自身の楽曲を研ぎ澄まし続けた結果、付随したものなのだろう。一つひとつの音に漲るエネルギーは、ジャンルという概念を優に飛び越える。感電にも近い衝撃が全身を駆け巡った。
人懐こいメロディが富樫ユイ(Gt/Vo)の息遣いをも引き立てる「111511」で雄大に幕を開けると、河合崇晶(Ba)が「新曲を3曲やります」と告げ、緊迫感のあるベースリフと艶やかなボーカルのコントラストが魅惑的な「新曲1」、Tener Ken Robert(Dr)による隙のないビートが深みを作る「新曲2」、鋭さと柔らかさを併せ持つ「新曲3(仮)」と3曲連続で新曲を披露する。3人の鳴らす音はそれぞれの人格や佇まいがそのまま音になったようで、ゾーンに入れば入るほどその威力は増していった。「13月」で見せたそれはしなやかでたくましく、何かを祈るようなあたたかさに溢れる。3人で円を描くように演奏するシーンは、3つの星がひとつの絵を描く星座のように見えた。興奮冷めやらぬフロアの拍手に応え、アンコールの「AWAKE」で締めくくる。この日のTOKIO TOKYOのトリに相応しい貫禄と気品あふれるステージだった。

