5月21日、yoursヅによる自主企画イベント『by your side vol.2』が、東京・下北沢Flowers Loftにて開催された。現代の恋愛模様に寄り添った楽曲がショート動画プラットフォームを中心に共感を集める一方、ライブシーンでも着実に支持を広げてきたyoursヅ。今年2月16日には、同じく下北沢Flowers Loftにて入場無料の初ワンマンライブ『好きになったあなたが大勝利!』を開催したことも記憶に新しい。
昨年8月の第1回に続く自主企画となった今回は、大阪から声にならないよと606号室を迎えてのスリーマンライブ。yoursヅにとってはこうた(Gt)のラストライブでもあったが、この日下北沢の夜に灯されたのは、別れの寂しさを超えて、ライブハウスで出会えた喜びを分かち合う温かな光だった。
文:サイトウマサヒロ
声にならないよ
写真:若奈
ピアノの音色が、Flowers Loftを地上の喧騒から切り離された親密な世界へと塗り替えていく。そこから一気にバンドが鳴り出すと、まばゆい光が会場を包んだ。「声にならないよです、よろしくお願いします!」。そう告げた若宮めめ(Vo)の歌声は、フロアに集まった一人ひとりの隣に立ち、そっと囁きかけるように柔らかい。1曲目の「生きる理由になったから」が示したのは、彼がステージに立っている限りは、ここは痛みのない楽園だということだ。
HiRo(Key)の琴線に触れる旋律、たかだしおり(Sup.Ba)のコーラス、古賀大蔵(Sup.Dr)の一打一打を噛み締めるようなドラム、そしておーしゃん(Sup.Gt)の、感情のバトンを若宮から受け継ぐようなギターソロ。それらすべてが、歌を優しく、しかし力強く支えて、ライブは進んでいった。「恋する」ではテンポアップしたサウンドに合わせて自然にハンドクラップが起こる。「あなたが前を向ける日になるようにこの歌を」という言葉に続いて披露された「やんわりポジティブ」のわちゃわちゃ感の中でも、彼らの音楽には徹底してトゲがない。ただがむしゃらに元気づけるのではなく、弱さも痛みも抱き止めた上で、それでも君が前を向くことを祈る。そんな彼らなりの優しさの哲学が、会場をそっと包み込んでいく。
MCでは、yoursヅとの念願の対バンが実現した喜びを伝えつつ、「2バンドに負けないようなラブソングをたくさん歌って、好きになってもらうために来ました」と宣言。そして演奏された「やっかい」はミドルテンポの一曲で、若宮の声に宿る細やかなニュアンスがより際立つ。一文字一文字に思いやりを詰め込むような歌唱に共鳴するように、フロアにはハンドウェーブが広がっていった。
「恋焦がれ」のコール&レスポンスでワンサイドの優しさを双方向の温かさへと変換させると、ラストに届けられたのは「インターネットの海を越えて」。5人の声が重なり合い織りなされる、クライマックスにふさわしい一体感。誰かの胸にしまわれたままの感情が歌になり、笑顔や手のひらが返される。そんな想いの交換に、メンバーは確かな手応えを感じているようだった。
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606号室
写真:圓札 有柚
「Flowers Loft、遊ぶ準備できてますか?」そんな投げかけから幕を開けたライブの1曲目は「だらしない二人」。性急なドラミング、ウォーキングベース、そして縦横無尽に駆け巡る鍵盤のフレーズが、フロアを一気にドタバタの世界へと引き込んでいく。ギターボーカル、ベース、ドラム、キーボードが一人ずつというシンプルな編成でありながら、その音像は実に彩り豊かだ。ジャジーなビートやスラップベースも飛び出し、無邪気な高揚感の中にも確かな構成力が息づいている。その忙しなさを涼しげな笑顔で乗りこなす昇栄(Vo/Gt)の姿からは、目の前の一人ひとりを楽しませようとするエンターテイナー精神も滲んでいた。
続く「スーパーヒーロー」では、イントロの四つ打ちビートに合わせてフロアが一斉に飛び跳ねる。明るく弾けるサウンドの一方で、「綺麗な星だってさ夜にしか輝けないでしょう」というフレーズにはただ眩しいだけでいられない誰かにも寄り添う優しさが感じられたし、「君の苦しみをなくすことは出来ないけれど 半分にして幸せは倍にしてあげるから」という言葉はバンドのアティチュードそのもののように響いていた。
息切れするほどの勢いで愛を伝えられたというyoursヅとの出会いのエピソードを披露し、「最高のバトンをyoursヅに渡したいんですけど、付いてこれますか!?」とここからさらにエンジンを踏み込む。新曲「恋人だけじゃ足りないの」は、線香花火のようにパチパチと煌めくピアノフレーズが印象的なアップチューンだ。少し低めのキーで歌われるメロディだからこそ、等身大の思いがスッと胸に入ってくる。さらにスピードアップして「未恋」へ。シンコペーションを交えながら先へ先へと進んでいく合奏に対して、昇栄の歌声はどこか後ずさりするようだ。606号室は、感情を大袈裟に演出するのではなく、各楽曲に込められた想いの揺らぎを声のニュアンスに細やかに反映させていく。
「人には言えない悩みや苦しみを抱えてると思うけど、俺から見えてる君は十分に美しいから、そのままでいいんだということを覚えていてほしいです」。不器用でいい。完璧じゃなくていい。そんなメッセージは、ラストの「色取り」のカラフルなサウンドに昇華されていく。サビで掲げられた拳が、色とりどりの照明を反射している光景が印象的だった。
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yoursヅ
写真:イシカワマドカ(@__killmiss)
本日の主役であるyoursヅのライブは、そら(Vo/Gt)による「俺たちは、あなたたちのことを思いっきり楽しませて帰ります!」という頼もしい宣言からスタート。その言葉には、現体制ラストライブとなるこの日を、湿っぽさではなく前向きなエネルギーで満たすのだという意思が宿っていた。口火を切ったのは勢い良く駆け出すロックチューン「スーパースター履いて」。れお(Dr)のキレのあるフィルインと鮮やかなスティックさばき、エモーショナルなソロから高速ダウンピッキングまでロック魂あふれるプレイで楽曲を牽引するこうた(Gt)。ポップネスの奥から、バンドとしての確かな地力が叩きつけられる。
続けて披露されたのは、TikTokでも話題を呼んだ人気曲「塩顔男子」。キャッチーなシンセのリフと軽快なビートが、会場いっぱいに多幸感を充満させていく。サッパリしているようで、踏み込むと深くて甘い。そんなyoursヅの世界に、フロアはわずか2曲であっという間に引き込まれていた。そこからシームレスにミドルチューン「あなた」へと流れ込む。サビへ向けてどんどん高まっていくコード進行は、恋に落ちることで自分の世界が少しずつ変わっていく感覚とも重なる。言葉だけでも、音だけでもない。歌と合奏が噛み合うことで、yoursヅは恋愛模様を立体的に描いていく。その巧みなストーリーテリングが、リスナーをさらに深い没入へと誘った。
そら曰く、共演の2組はずっと背中を追い続けてきた先輩なのだという。だからこそ、「あなたのこと、思いっきり沼らせて帰ります」と意気込むその眼差しにも気合いだけがみなぎって濁りがない。
「アルコールとあなた」では、少しふらついて時折スキップしながら夜道を歩くようなアンサンブルが印象的だった。飾り気のない音の重なりが思わせるのは、酩酊した飲み会の帰り道にふと押し寄せる、寂しさと喜びが入り混じった感情。誰もが一度は覚えのある、自分の内側だけにあると思っていた気持ちを、yoursヅは見事に普遍的なポップスへと昇華していく。続く「カセットテープ」はさらに音数を削ぎ落としたバラード。みんなで楽しむ一体感も、静かに共感を誘う孤独も、どちらも偽りなく描くのが彼らなりの誠実さなのだろう。先ほどまでの華やかな高揚とは異なるパーソナルな世界が、フロアをゆっくりと包み込んだ。
生活と自己表現、世間体と本音の狭間で、彼らがバンドを続ける理由は「本当に、あなたがいるからなんですよ」。そう力強く語って、「花火より浴衣」から、yoursヅは再び走り出した。そのスピードは梅雨を通り越して、夏を先取りするようだ。疾走感ある8ビートにほのかな恋心が託され、フロアの温度はにわかに熱を増していく。そのままシームレスに「かわいいは沼」へ。生活感あふれるリリックも、ライブハウスで鳴らされるとなんだか特別に響いて、yoursヅはそうして、一人ひとりの日常を眩しい光で照らしていく。
あっという間にライブは終盤へ。弾き語りで幕を開けた「好きになったもん負け。なんて信じない!」は、やがてダンサブルに広がっていく、とびきりきらめくJ-POPチューンだ。先に好きになったら負け。そんな恋愛にまつわる定説を、yoursヅは真っ向から覆しにいく。彼らが狙うのは、ただ”あるある”で共感を集めることではない。むしろ、その当たり前を丁寧に集めたうえで、最後にひっくり返すこと。共感は、逆転劇のための伏線なのだ。
ステージを降りたメンバーにアンコールが送られると、終電の迫る観客のことも気遣いすぐさま再登場。6月中旬のシングルリリースを発表すると、早速その新曲を披露した。タイトルは「失恋大歓迎」。「失恋=最高」という印象的なフレーズから幕を開け、ストレートなバンドサウンドとyoursヅらしいポップな音使いのコントラストが印象的な、新境地とも言える一曲だった。失恋の切なさを噛み締めながら、それでも前向きに肯定してみせる。その姿勢は実にyoursヅらしく、彼らの励ましが届く範囲をさらに広げていく一曲だと感じた。
最後は再び「スーパースター履いて」。カウントに合わせて、フロアから「ワンツー!」の掛け声が上がる。メンバーはステージ前方へ身を乗り出し、オーディエンスが手拍子や拳で応答する。そのすべてが、1回目の披露よりも心なしか前のめりだった。その差分こそが、この日yoursヅが引きずり込んだ「沼」の深さの証明だったのだろう。
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