4月26日、ORCALANDによるライブ『HERO IS COMING』が東京のライブハウス『新代田FEVER』で開催された。
今年2月14日にリリースされたORCALANDの2ndミニアルバム『HERO’S HIGH』を引っ提げての全国ツアーが、3月22日に千葉『千葉LOOK』から出発した。宮城から福岡まで全国7会場を行脚したツアー、その千秋楽である。
先日、当サイトでORCALANDを取材させてもらった縁でこのライブに招待して頂いた。以下はそのライブレポートとなる。
当サイトで掲載されたORCALANDの特集記事をまだ読んでいない方は、ぜひ一読してからライブレポートを読んで欲しい。
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下北発「ORCALAND」!ライブを中心に活動する「誰1人置いていかないロックバンド」の素顔に迫る!
シナリオアート
ゲストバンドの『シナリオアート』がトップバッターを務める。
今年で結成から15年を迎えるスリーピースバンド。女性ドラムス・ボーカルと男性ギター・ボーカル、男性ベース・コーラスという珍しい構成のバンドだ。舞台への楽曲提供やTVアニメとのタイアップなど、数多くの実績を持つ。
聴いていて心地の良い”不安感”
幻想的なSEをバックにメンバーがステージに上がる。そのままイントロに移行し、ドラムスの良く通る声がフロアに響く。彼らの時間が始まった。
オープニングナンバーは『テンダーランド』。エレクトロニックサウンドを駆使した美しい楽曲。だが、それだけではない”影”も感じる。
続く『サヨナラムーンタウン』と『ブルースメル』は一聴するとオーソドックスなロックナンバー。しかし、ここでも何か”影”のようなものを感じる。楽曲の進行によるものなのか、リズムの外し方によるものなのか、それとも歌詞から読み取れる終末感によるものなのか、それは分からない。とにかく、”上手く言葉にできない不安感”が自分の胸に芽生えているのを感じる。
聴いていて不安な気持ちになるが、まったく不快ではない。むしろ、もっと聴いていたいと感じる。幻想的で綺麗な楽曲の中に作り込まれた”不安定さ”。その”不安定さ”に身を委ねていると、フッとどこかへ落ちてしまいそうな感覚に包まれる。その度に、まっすぐ響くツインボーカルに、力強いドラムスに、芯のあるベースに、落ちそうな身体を後ろから支えられているような錯覚を起こす。
「救われてばっかの人生」
“誰かを救うことがあまりなくて、救われてばっかの人生なんですけど。だからそういう曲ばっか多いです“
“俺達は誰かを救うとかじゃなくて、同じ弱い者同士で寄り添えたら良いな”
MCでハヤシはそう語った。
きっと、これがシナリオアートの楽曲を聴いたときに感じた”不安と安心”の正体なのだろう。
颯爽と現れるステレオタイプなヒーロー像ではない。バンドメンバーの弱さを表現した楽曲と、聴く者の弱さが共鳴する。
それは一見するとたしかに”弱いもの同士で寄り添っている”だけかもしれない。問題を解決してくれるわけでも、誰にも負けない力を与えてくれるわけでもない。それでも、寄り添って欲しい・寄り添いたいと思ったときに”そこに居てくれる”彼らは間違いなくヒーローだと思う。
「足りない僕らはなんとか生きてる」
“ORCALANDね、救ってくれそうやな、あいつら”
そう語り『エバーシック』と『アダハダエイリアン』を続けて披露した。どちらも弱い人間の少し歪んだ心情を描いた曲だと感じる。心が折れたり、絶望したり、それでも生きることを諦めたくない。非常に人間らしい泥臭さが綴られている。
“ヒーロー見つけたわ。こことここ”
二度目のMCでそう語ったハヤシも、それを受けたハットリもヤマシタも、全員が照れくさそうに茶化す。
茶化してはいるが、これは本音なのだろう。メンバー全員がきっとそれを理解している。こうして互いが互いの救いになっているのだ。
その後は『アカネイロフィフティーン』を歌い上げ、最初のヒーローはステージを降りた。
New Mini Album発売&全国ワンマンツアー
そのシナリオアート、6月19日に7枚目のニューアルバムの発売が、7月6日からは全国ワンマンツアーが決定している。
ツアーファイナルは7月24日に東京『渋谷WWW』での公演となる。
チケットの販売期間やアルバムの予約特典など、詳細はシナリオアートの公式サイトをチェックして欲しい。
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New Mini Album発売&全国ワンマンツアー開催決定!
Mercy Woodpecker
二番手を務めるのは、2016年に結成した熊本出身のロックバンド『Mercy Woodpecker』だ。
現在も九州を中心としながら、東京、名古屋、大阪など全国各地で精力的にライブ活動を行っている4人組バンド。
この日は前後に遠征予定がない中、盟友のツアーファイナルを成功に導くために熊本から駆けつけた。
「羽は無いけど飛べる」
1曲目は『トビウオ』。どうにもならない不条理に、どうしようもなく”正しい”世界に、自分の中で燻る何かを、どうして良いのか分からない。そんなやるせなさと、それでも立ち向かう勇気を綴ったような王道ロックナンバーだ。
続く『新世界』と『ストロボデイズ』。心地よいロックサウンドに、”大人”になっていくことへの葛藤を描いた詞が乗って会場を包み込む。
どの曲からも反骨精神が読み取れる。まさに”ロック”な楽曲ばかりだ。
現代における”ロック”の答えの一つ
マシペカの楽曲からは90年代ロックのにおいがする。
90年代と言えば、日本では空前のロックバンドブームの真っ只中。30年以上続いた平成が終わり、令和も6年となった今でも活躍しているアーティストも多い。
比較的最近デビューしているメジャーアーティストでも「影響を受けたバンドは80年代、90年代に活動していた人たちです」なんて話もざらだ。
有名・無名を問わず数多のバンドが生まれては消えていった時代。日本における”ロックバンド”の形は、90年代である程度の完成を見せてしまっていたように思う。
エレキギターとドラムを前面に出した疾走感のあるサウンドに、まっすぐな歌詞を乗せる。もちろん反骨精神を添えて、だ。それも、たっぷりと。
そうして聴く者を鼓舞する。「もっと強く」、「負けないように」、「一人でも生きていけるように」、と。それが90年代までの”ロック”だったし、筆者にとっての”ロック”でもある。
さて、そんな90年代ロックのにおいを濃く纏うマシペカだが、90年代ロックとは違う点がある。歌詞だ。
先ほども書いたように、90年代までのロックと言えば、聴く者を「立ち上がらせる」ものが多かった。不条理に立ち向かう勇気も、負けずに生きていく強かさも、個人の内面に見出すものが多い。(もちろん、それに対する”寂しさ”や”やるせなさ”のようなものを歌った曲もあるが)
だが、マシペカの曲は、聴く者が「一緒に立ち上がれるようにする」曲が多いと感じた。
誰の心にも反骨精神はあるかもしれない。不条理に苛立ちを覚えることはあるかもしれない。だが、誰もがそれを自分の力で「なにくそ!」と吹き飛ばせる強さを持っているわけではない。頭では分かっていても、行動に移せない人も多いだろう。吐き出すこともできない人だってたくさんいるはずだ。
そういう人たちと一緒に立ち上がり、時には代わりに叫ぶ、そういう優しさをマシペカの曲から感じた。
生きにくいとされる現代で、自分の心を表現する手段が乏しい現代で、自己よりも他者を思いやることが強要される現代で、心に燻る反骨精神を忘れさせない。
現代における”ロック”という表現の答えの一つなのかもしれない。
「コンビニのアイスみたいになりたい」
ギター・ボーカルの直江はMCで「コンビニのアイスみたいになりたい」と語った。つらいときに自分を慰めるため、嬉しいときに喜びを噛みしめるため、頑張った自分を労うため、そういうふとしたときに食べるアイスみたいになりたいと。
ORCALANDが自分たちの芯だと語った「誰1人置いて行かないロックバンド」という形。マシペカが目指す形も同じだと感じた。だからこそ、難しかったであろうスケジュール調整を苦にすることもなく、この日に駆けつけてくれたのだろう。
『アルターエゴ』、『subliminal』、『宇宙船の窓から』、『さよならスターライト』、『エバードリーム』と計8曲をまっすぐに歌い上げて、2組目のヒーローも今日の仕事を終えた。
ORCALAND
トリはもちろん、本日の主役である『ORCALAND』だ。東京下北沢で結成された4人組バンド。今年で結成から5周年を迎える。
2023年は1月から12ヶ月連続で下北沢のライブハウスを回るライブイベント『ジントリ』を成功させ、2024年2月に2ndミニアルバムをリリース、同年3月から全国ツアーを開催するなど、今最も精力的に活動している注目バンドの1つだ。
HERO IS COMING (BACK)
“東京に!ヒーローが!帰ってきたぞおおおお!!”
力強いマイクパフォーマンスとともに登場した彼らが最初に披露したのは『テレキャスター・ヒーロー』。アルバムタイトルの『HERO’S HIGH』やツアータイトルの『HERO IS COMING』など、直近のORCALANDにとってのテーマとも言える曲だ。
どこかダサく青臭い、まっすぐな歌詞がかっこいいアップテンポなロックナンバー。ギターキッズがそのまま大人になったような、どこか懐かしさも覚えるような1曲。そんなヒーローに憧れて自分も楽器を手に取った人や、そのヒーローに救われてきた人はたくさんいるだろう。
今日(も)シモテに立つギターヒーローは、テレキャスター・シンラインを携えた村田。歌詞に合わせたパフォーマンスとともに、最高のソロで観客を魅了する。
これは個人的な好みの話になるが、”テレキャスター・ヒーロー”が”シンライン”を持っているとはいうのはとても良い。シブいと言うか、心をくすぐるものがある。コールドプレイのジョニーがよく使っているのを見て憧れたものだ。
あとはテレキャスターだと赤いテレキャスも好きだ。アヴリルがSmileのMVで持っているのを見て最高にクールだと感じた思い出が印象強く残っている。
閑話休題。長く短い旅を経て東京に凱旋したヒーロー達は、1曲目からその実力を遺憾なく発揮し、フロアを熱気で包みこんだ。
新代田 NIGHT FEVER
“今日この場所に一番似合う曲があるんですけど!”
この前フリだけで次の曲がわかる。『HERO’S HIGH』のリードトラック、『関係NIGHT FEVER』だ。
いつまでも耳に残るフレーズに、底抜けに明るいトラック。小さな悩みなんてどうでも良く思えてくるような、とにかく聴く人を楽しませるために作られたような曲だ。
誰もがスマホを持ち、インターネットの向こう側からの悪意に触れる可能性が高い時代。そんな現代にあって「人の悪意に飲まれたり、自分の悪意を増幅させてしまうよりも、気にせず楽しんだ方が良いよね」なんて当たり前のことに気づかせてくれる。
公式YoutubeチャンネルではMVも公開されている。未視聴の方はぜひとも見てほしい。
良い意味でチープな雰囲気の映像で、ただただひたすらにバカみたいに楽しそうなバンドメンバー達が印象的だ。
フロアを埋めるファン達は当然視聴済みなのだろう。MVよろしく、両手を振って楽しんでいる姿が多く目についた。
集大成であり、スタート
“最高じゃん。ずっとこれが良いわ”
3曲目に『ダンシングゾンビの決意』を披露した後のMCで大塚はそう語った。ツアーで全国を回ったが、やはりホームの東京は格別なのだと言う。
本番が始まる前、リハーサルを終えたあとにもORCALANDに話を聞いていた。その中でメンバー全員が声を揃えて語っていたのが「今回のツアーは嫌な気持ちになることがなかった」ということだった。
これはツアーが嫌だとか、音楽が嫌だとか、そういう話ではない。ただ、音楽活動を続けていく中で、イベント内容への不満だったり、自分達への不安だったり、メンバー同士での考え方の食い違いだったり、そういう当たり前の小さな不快感というのはどうしても付きまとうものだと思う。今回はそういう不快感がなかったと言うのだ。
もちろん、メンバーが「何も考えなくなった」とか「不快感に慣れた」というのとも違うだろう。メンバー全員で考え、全員で話し、全員で演奏する中で、メンバー全員が目指す方向性が固まったのだ。
音楽でも仕事でも、ともに歩む仲間の方向性が一致したときの快感はとてつもない。そんな最高の状態でツアーを行い、ここまでの6公演を成し遂げてきたのだ。
このMCで大塚が語った「最高じゃん」という言葉は、我々が想像する以上の感情が溢れたものなのかもしれない。
“俺達、ファイナル、ただで終わるつもりはないんで”
「昨日の自分を越えるため走る」
4曲目に披露したのは『リフレイン』。昨年7月にデジタルリリースされたシングル曲で、『HERO’S HIGH』にも収録されている。
直前のMCで「ずっとこれが良い」と言っていたのに、「昨日の自分を越えるため走る」と歌うのだから面白い。
誰だって、今の状況が”良い状況”なら現状維持に甘えたくなるものだ。だが彼らはこれからもずっと「昨日の自分を越えるため走る」のだろう。今までもそうしてきたように。それこそが彼らの強さなのだと思う。
“今のままが良い”という気持ちも、”より高みを目指したい”という気持ちも、どちらも本物の感情だろう。矛盾する気持ちが同居するのが人間の面白いところだ。そして、それを恥ずかしがらずに表現できる人たちに、人々は惹かれるのだろう。
5曲目に『ラブソングなんかにしてやんないわ』を披露。ややアップテンポな、かっこいいラブソングだ。テレキャスター・ヒーローでもある村田が作詞したというこの曲は、サビの歌いだしが独特なフレーズで耳に残りやすい。”流行りの歌”を”安っぽい恋愛”と断じるような強がった心情も美しいと感じる。これも一聴の価値ありなので、聴いたことがない人はぜひ聴いて欲しい。
「あなたとこの先も色んな景色を見たいです」
5周年という節目で自分達のテーマとも言えるタイトルのアルバムを出せたこと。そして、そういうタイトルでツアーができたこと。それらは偶然ではなかったと大塚は短く語る。その言葉を聴いて、他のメンバーも観客も小さく頷く。
続く曲は『Journey』。2019年から始まった彼らの冒険、彼らの旅を綴った曲だ。まだ何もない、何者でもない彼らの心情が、彼らの夢が、憧れが、言葉の多くない歌詞に詰まっている。
彼らはこれから先も長い旅を続けていくだろう。ファンと一緒に。昨日の自分を越えるため、未だ聴いた事無い音を一緒に感じるために。
その後は『ワンシーン』と『最近のこと』とミディアムバラードを2曲続け、フロアをしっかりと”聴かせる”パフォーマンスを見せた。
「いつの間にか誰かのヒーローに、もうなってた」
ツアー初日、MCで「俺達がヒーローになるためのツアー」と語ったと言う大塚。テンションが上がって出てしまった意図しない台詞だったが、「自分達もヒーローなんだとみんなに教えられるツアーだった」と言葉を続ける。
全国を回る中で「ORCALANDがここに来てくれたからこそ、自分たちもライブに来た」と言ってくれるファンとも出会ったと言う。
“ヒーローっていのは、なるものじゃなくて、誰かがその人のことをそう思った瞬間からヒーローなんだなって、このツアーを回って思いました”
「誰かのヒーローにならなきゃ」
そういう気持ちでがむしゃらに走ってきたORCALANDは、すでに誰かのヒーローになれていた。このツアーはそういう物語だった。
「誰かを救うことがあまりない」と語ったシナリオアートも、「誰一人置いていかない」という想いを共有したMercy Woodpeckerも、そして、”ただの音楽好き”を”ORCALAND”としてステージに立たせてくれている観客のみんなも、誰もが誰かのヒーローになっている。
最終ブロックは『POLARIS』と『まだまだ飲み足りない!』でフロアを沸かす。
熱が冷めないまま、アンコールでは『やってらんねぇ』を観客と一緒に熱唱して、3時間近く続いたヒーローショーは惜しまれつつも幕を閉じた。
『ギャルズ2024』開催決定!!
全国各地を沸かし続けてきたORCALANDだが、アンコール前に嬉しい告知が解禁された。
夏の定例イベントとなっている『ギャルズ』が今年も開催されることが決定したのだ。
『ギャルズ』は男性ボーカルと女性ボーカルをミックスする形式の対バンイベントで、今年で3回目の開催となる。
チケットの最速先行抽選も始まっているので、ぜひ公式サイトをチェックして欲しい。
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ORCALAND presents “ギャルズ2024″開催決定!!