2025年12月21日(日)、下北沢・近松にて、吸空サイダー presents「“心呼吸 vol.2”」が開催された。
この日は、「kilaku。」「三毛とアネモネ」「秘密兵器」、そして「吸空サイダー」が順にステージに登場。近松の空間は、時間の経過とともに熱量と密度を増していった。
ライブが始まると、その空気はさらに濃くなり、フロアにはそれぞれ異なる表情を持つ音楽が丁寧に積み重ねられていく。
さらに会場には高山クオリティーが手がけるフードや、ハンドメイドアクセサリーの物販が並び、開演前から近松は心地よい匂いと人の温度で満たされていた。
良い匂いと良い音楽、そして確かな熱量が同居した一夜。本記事では彼女たちの“心呼吸”の様子を記していく。
kilaku。
トップバッターとして登場した、東京都発ロックバンド、“あなたの憂鬱を歌に乗せて”をコンセプトに活動するkilaku。は、フロアを一気に“物語の中”へ引きずり込む力を持っていた。ノスタルジックな匂いを纏ったサウンドはどこか懐かしく、それでいて現在進行形の衝動をはっきりと刻んでくる。その両立が、このバンドの最大の魅力だと強く感じさせられるステージだった。
1曲目『劣等を鳴らせ』から、感情は遠慮なく放り投げられる。劣等感や焦燥を肯定するような言葉が、勢いのあるバンドサウンドに乗ってフロアに降り注ぐ。
続く『おかえり』では一転、温度のあるメロディが胸の奥を静かに揺らし、知咲季(Gt/Vo)が「迷ったら帰っておいでよ!」と、まるで帰る場所を示されたような感覚に包まれる。彼女らの掲げる“あなたの憂鬱を歌に乗せて”というコンセプトは、決して飾りではないことがここで確信に変わる。
続いて披露されたのはkilaku。の新曲であり、彼女たちの現在地を示す『夢と生活』を披露。初めて聴くはずなのに、なぜか知っている感情に触れてくる不思議さがある。
『hilite』では再び勢いが加速し、フロアの熱量も一段階上がる。さらにMCでは知咲季が「いい匂いするね〜お腹減るね(笑)」と、高山クオリティーが燻らす匂いについて言及。
続けて「吸空サイダー呼んでくれてありがとう!イベント名が“深い呼吸”じゃなくてじゃなくて“心呼吸”。私が今歌っている音楽、言葉。聴いてくれるあなたたちの顔、目、拳。これこそが私たちが作れる“心呼吸”なんじゃないかなって思います。1人じゃできないし、みんながいるから、ライブハウスがあるから私はここで歌ってる。この気持ちは吸空サイダーに思い出させてもらいました。そんな尊敬している吸空サイダーに付いていけるように大切にしている曲やります。」と、吸空サイダーの楽曲『稀と角部屋』を届けてくれた。
後半の『海とダリア』『春の雪』では、、切なさと希望が同居する旋律が、ライブハウスという空間を越えて、各々の日常へと滲んでいく。
トップバッターでありながら、この日のライブを深く印象付ける時間となり、我々の記憶に爪痕を残してくれた。
<セットリスト>
1.劣等を鳴らせ
2.おかえり
3.夢と生活
4.hilite
5.稀と角部屋(song by 吸空サイダー)
6.海とダリア
7.春の雪
X:https://x.com/kilaku_official
三毛とアネモネ
2番手として登場したのは、東京・下北沢発の4ピースギターロックバンド、三毛とアネモネ。
フロアの空気が温まりきったところに現れた彼らは、その流れを受け取るだけでなく、さらに前へと押し出していく力を持ちながらも、楽曲ごとに確かな物語性を感じさせるステージ運びが印象的だった。
1曲目『鳴り止まない歓声を』からバンドの輪郭は明確に提示され、音が前に出るたびにフロアの視線が自然とステージへ集まっていく。
続く『Imagination』では、その名の通り想像力を刺激するような展開が続き、軽快さの中にどこか青春の焦燥が滲む。音数は多くないが、一音一音がきちんと意味を持って鳴っているのが伝わってきた。
『雨降る夜に』では、セットリストの流れを静かに転換させる1曲となった。これまでの勢いを一度落とし、感情の内側へと潜っていくような時間。物語の章が切り替わるように空気が変わり、観る側も自然と耳を澄ませていたように思う。
続く『September』では再び光が差し込み、季節や記憶を想起させるメロディが心地よく広がっていった。
MCではカノン(Vo/Gt)が「今日は本当に大好きなバンドが集まってて、吸空サイダーとは前体制からお世話になってて新しい体制になって一緒に頑張ろうぜって言ってくれる大切な仲間です。そんな仲間のために最後に新曲をやります。朝になって自分はまだやれる、ここにいる意味があるって自分の背中をまず押すために作りました。この曲がいつかみんなの背中を押す曲になったらなって思ってます。」と、最後に新曲を披露し、この日のライブを“今”として刻み込む。
まだ名前のない感情を掴もうとするようなフレーズと、真っ直ぐな演奏が、バンドのこれからを想像させる。
勢いだけでは終わらせず、物語としてライブを組み立てていく三毛とアネモネ。その誠実さと前向きなエネルギーは、確実にフロアに残っていた。
<セットリスト>
1.鳴り止まない歓声を
2.Imagination
3.雨降る夜に
4.September
5.新曲
秘密兵器
続いて登場したのは、純情たるロックをかき鳴らす秘密兵器。ステージに姿を現した瞬間、フロアに流れ込んできたのは、鋭さよりもまず“落ち着き”を感じさせる音だった。
名前とは裏腹に、決して派手な入りではない。だが、その静かな鳴りの奥に、確実に熱が溜め込まれているのが分かる。最初から飛ばさず、丁寧に空気を整えていく、その姿勢が印象的だった。
そんな秘密兵器は、1曲目に『君とオレンジ』を披露。やわらかな光を帯びたような楽曲で、ライブの導入として完璧と言える。感情を押し付けることなく、そっと差し出すような演奏が心地よく響く。続く『春風』では、音の輪郭が少しずつはっきりし、風が吹き抜けるようにサウンドが広がっていく。ここから徐々に、ライブ全体の温度が上がり始めていくのがはっきりと感じられた。
『君に借りたままのTシャツ』では、個人的な記憶を辿るような言葉とメロディが胸に残る。過去と現在が静かに交差し、聴き手それぞれの思い出を呼び起こすような時間だった。
そして『僕の青春また逢う日まで』で、その流れは一気に解放へと向かう。音は大きく、空間は広く、雲ひとつない快晴を思わせるような開放感がフロアを包み込む。
後半に進むにつれ、感情の振り幅はさらに増していく。『忘れたいのに』では、タイトル通り割り切れない感情がむき出しになり、抑えてきた思いが音となって放たれる。そして『衝動』で一気に加速し、理屈よりも身体が先に反応するような瞬間が生まれた。
MCでは朋葉(Vo/Gt)が「これといった原因がなくても今日しんどいなとか明日行きたくないなって誰にでもあるじゃないですか。息をするので精一杯というか。そう言った時に私はあなたは弱くない、あなたは強いって歌で伝えていけるバンドマンになりたい。あなたは弱くなんてない。もしそれがわかんなくなったらライブハウスに会いに来てください。今日は本当にありがとうございました。大切な曲を置いていきます。」と、ラストに『2003』を披露。
過去を振り返りながらも前を向くような余韻を残し、ライブを静かに締めくくる。静から動へ、抑制から解放へ。その流れが明確で、感情の変化を自然に辿らせてくれるステージとなった。
秘密兵器は、押さえ込んでいた気持ちをそっと掬い上げ、最後には晴れ渡る空の下へ連れ出してくれる、そんなライブを見せてくれた。
<セットリスト>
1.君とオレンジ
2.春風
3.君に借りたままのTシャツ
4.僕の青春また逢う日まで
5.忘れたいのに
6.衝動
7.2003
X:https://x.com/official_heiki
吸空サイダー
最後に登場した、東京都・町田発の4ピースロックバンド、吸空サイダー。イベント全体の熱量と感情が十分に熟した状態で迎えたラストアクトに、彼女たちは全ての思いを音に乗せ、決定打となる感情を置いていった。
爽やかさと泥臭さ、繊細さと荒さ。その相反する要素を同時に成立させた吸空サイダーの1曲目は『強虫ファンファーレ』から始まり、フロアの空気は一段階引き締まる。
ギターの細かなフレーズが折り重なり、音の隙間まで意識されたアンサンブルが心地いい。ただ勢いで押すのではなく、音楽としての説得力で観る側を掴みにくる。その姿勢が、トリとしての説得力を自然と生み出していた。
続く『秘色』では、色彩を帯びたメロディが広がり、静と動のコントラストが鮮やかに浮かび上がる。
3曲目に新曲を披露。今の吸空サイダーを映すような1曲となり、少しの違和感や揺らぎを内包しながら、それでも前へ進もうとする音像が印象的で、バンドがまだ変化の途中にあることを感じさせる。
続く『春冷め』では、その繊細さがより際立ち、冷えた空気の中に残る温度のような感情が、じわりとフロアに染み込んでいき『海岸』から後半戦へ突入し、一気に視界が開ける。音は広がり、身体が自然と揺れるような解放感が生まれるが、決して軽薄にはならない。
『夕凪』では、時間がゆっくりと流れ、波が止まる瞬間のような静寂と余韻が会場を包み込む。
MCでは、てん(Vo/Ba)が「“心呼吸”これから何回続いていくかわからない。でも沢山やっていきたい。このタイトル、最初はあまり意味はなかったけど、続けていく中で色々な意味が積み重なっていく中で今まで対バンしてくれた人たちの言葉ももちろん入ってくる。毎日色々ありますが自分がやりたいことには素直で真っ直ぐにいてください。」と、残し、ラストに『エンドロール』を披露。
これまで積み重ねてきた感情を一度すべて受け止め、物語に静かな区切りを打つ。
曲が終わり、吸空サイダーはステージを降りるが観客からの手拍子は止まらず、アンコールが始まる。
アンコールで披露されたのは『稀と角部屋』
この日一日の記憶を再び引き寄せるような存在だった。すでに別のバンドで断片的に提示されていた楽曲が、ここで完全な形として鳴らされることで、イベント全体がひとつの線で繋がっていく。
吸空サイダーは、爽やかでありながら泥臭く、繊細でありながら力強い。その心地良いぐらいの矛盾を抱えたまま、確かな余韻を残し、深い“心呼吸”を締めくくった。
<セットリスト>
1.強虫ファンファーレ
2.秘色
3.新曲
4.春冷め
5.海岸
6.夕凪
7.エンドロール
<アンコール>
1. 稀と角部屋
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