Liveシーン ―「STAYS」
次の出演者の「STAYS」は楽器隊が登壇した状態で幕が上がった。
ドロップチューニングのメタルテイストなフレーズと、パワフルなドラムが会場を駆り立てる。
長尺のインストだが、長いと感じるようなことはない。メロディアスなギターにもストーリー性がある。
「STAYS」のコンセプトがぎゅっと詰まったインストであり、名刺代わりだとでも言うような圧巻のサウンドだった。インストの終盤にヴォーカルが登場し、客席から歓声が沸く。「STAYSです。よろしく」とヴォーカルが短く自己紹介をすると、1曲目が始まる。
イントロでハイを掻き鳴らすギターとそれを覆う楽器隊にシンプルに「カッケェ!」と心が踊らされるやいなや、空間系を駆使した冷たい静寂のAメロ。食い気味にデスボイスが登場し、無意識にヘドバンしてしまうBメロ。まだまだこれからだとでも言うような勢いのサビをヴォーカルが綺麗に歌い上げる。
0と100をうまく使った展開が素晴らしいアレンジだった。
随所に各楽器にスポットライトを当てたアレンジがスパイスになっていて、あまりデスボイスが入ってくるようなジャンルを聴かない層も無意識にヘドバンしてしまうだろう。
今回、1番注目したのがバンド全体のパフォーマンスだ。
楽器隊全員のスキルが高く、衣装なども独自の世界観を表現していた。楽器陣で特に目を引いたのは上手(1番右)のギタリストのパフォーマンス。彼の表情と豪快なパフォーマンスに目が自然と向いてしまうのだ。
それと、やはりヴォーカルの存在感は特別で、洗練されたメタルテイストの重いサウンドにも負けずに様々な歌声で曲を歌い上げていく。
そして曲中はもちろんのこと、MCにも滲み出ているヴォーカルのカリスマ性が「STAYS」の存在感を高める要素なのだろう。
「最後の曲は皆さんと一緒に歌いたい。心の声、心の歌声でもいいから歌ってくれたら嬉しいなと思います」とコールアンドレスポンスをしている姿は学生バンドとは思えないほどの存在感で会場を魅了していた。
最後の曲は爽やかなギターリフの後に、コールアンドレスポンスのメロディがやってくる。
覚えたてのものをすぐ歌えるのは気持ちがいい。キャッチーなサビのメロディは1回聴いただけで身体に染み付き、サビが終わったかと思えばお約束のデスボイスにメタルテイストのリフがやってくる。曲が終わるまで展開に飽きがこないのは、まさに「STAYS」のいいところをギュッと詰めた1曲となっていた。
前回の記事の「HIGH HOPES」でも取り上げたが、曲の隅々に対しての高いこだわりと個々の音楽に対する熱量が溢れている。
「STAYS」は20歳前後の若者が作り上げるクオリティとは思えないほど、どの曲も洗練されていた。初めて聴くリスナーも展開にワクワクすること間違いなしだろう。
Liveシーン ―「Tokyo idiot」
そして、このイベントの最後の出演者である「Tokyo idiot」がステージに立つ。
楽器の技術は圧倒的に上手く、本当に卒業したばかりの学生なのかと疑問に思ってしまうほどの音圧と経験値を感じた。
そして各パートが個々に存在感を生んでおり、特に目が離せなかったのがリードギターだ。
『DigOut』運営チーム内でも話題に上がっていたが、彼の足元のエフェクターの数がとんでもない。何十と繋がれているエフェクターを駆使し、様々な音色を奏でていた。
さらに、しっかりとバランスが取れているアレンジをしている。ヴォーカルを立たせる時は立て、ギターソロなど出るところはしっかりと出る、といったメリハリのついた演奏。そのパフォーマンスはまさにヒーローのようで、楽器経験のない人がステージを見ても彼に目が行ってしまうほどの存在感があった。
楽曲も練りに練られており、1曲1曲の完成度はとても高く、その中でも自分たちのこだわりを散りばめている。セクション毎のキメ1つ1つもバンド全体でタイトに合わせており、練習時間とライブ回数が手にとってわかるほどだ。
そして、ヴォーカルの楽器隊の音圧の中でもスッと耳に入ってくる声量と声質は心地よい。どの年代でも心地よく聴けるキャッチーなメロディと、1度聴いたらすぐに口ずさんでしまうだろう頭に残る歌詞がとても印象的だった。
MCも場慣れを感じる。ヴォーカルの客席を煽り、その熱を冷ますことなく次の曲に繋げる曲間やMCのテンポ感が絶妙だ。聴いている側はただ「Tokyo idiot」に付いていくだけで熱が上がっていく安心感があった。
特に印象に残ったのは最後の曲だ。ギターの繊細なアルペジオに加え、ドラムのスネアにリバーブをかけて幻想的なサウンドを作り上げていく。ミドルテンポでドシっと音圧が来るサビ。アルペジオで弾いていた繊細な印象のリフが、歪みで音色を変えて全く違う印象を与えてくる。安定感のあるリズム隊の上で、存在感のあるパフォーマンスで奏でるギターソロはまるでロックスターのようだ。
Liveを終えて ―
圧巻のパフォーマンスを披露してくれた「Tokyo idiot」で今回の『DigOut the Live:TSM Shibuya』は幕を下ろした。
『東京スクールオブミュージック専門学校渋谷』と、我々『DigOut』というコラボで行われた今回のイベントはまさに発見の連続だった。
今回のライブを通じて、普段であれば聴く機会のなかった次の音楽シーンを作り上げてゆく若者たちの熱量を肌で感じることができた。
好きなアーティストを好きな時に、好きなだけ聴ける今の時代で、あえてライブハウスに足を運ぶ。今まで自分が知らなかったアーティストを見つけ出す。アーティストのルーツやバックボーンを深く知ることで、彼らの歌や演奏している姿がより輝いて見える。
今後も次の音楽シーンを担うかもしれないアーティストたちの音楽に対する高い熱量が、『DigOut』独自の発信によって、多くの音楽ファンに伝わるはずだ。