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yellow trip – EP Release One man Live & “The Highlight” Exhibitionーーmaot

2025年9月5日(金)下北沢 SPREADで行われた「yellow trip – EP Release One man Live & “The Highlight” Exhibition 」は新進気鋭のビートメイカー/ドラマーmaotの繰り出すリリースワンマンライブとなっている。更に、maotの今までの作品のアートワークやグッズなど、彼の歴史を紐解く重要な日となった。

フューチャリングで現れたBattahshitの援護射撃もあり、会場はクリーンな音でクリエイティビティ溢れる空間に仕上がっていた。

本記事では、こだわり抜かれた当日の音、空間を余すところなく文字にしている。きっと読み終わる頃にはあなたも何かを生み出したくなっているだろう。

yellow tripに出かけるまでの時間

photo by @masakihayashi1996

ライブ会場へ足を踏み入れた瞬間、まず目に飛び込んできたのはステージでも照明でもなく、ひとつの“空間”そのものだった。フロアの入り口に設けられた展示スペース。そこにはアーティストmaot がこれまで歩んできた軌跡が、ひとつの物語として並んでいた。

通常のライブハウスに漂う緊張感とは異なり、まるでギャラリーに迷い込んだかのような静けさと没入感があった。壁に掛けられていたのは、これまで発表してきたEPのジャケット。そのデザインは単なる装丁ではなく、彼の音楽を形象化する視覚的アートである。さらに目を奪ったのは、そのジャケットの元となったオリジナルの作品が実物として展示されていたこと。ジャケットとして見慣れていたはずのものが、物質を伴い存在しており、作品が二重の意味を持ちはじめる。聴覚と視覚の境界を越えて、アートが一つの連なりとして体験できる構成の様に思えた。

とりわけ印象に残ったのは、楽曲のサンプリング元となったレコードがそのまま置かれていたことだ。彼の音楽の礎となる素材がこうしてひとつの円盤として静かに鎮座している。そこから音が切り取られ、再構築され、新たな楽曲として息を吹き込まれてきたのだと思うと、そのレコード一枚がまるで聖遺物のように尊い存在に見えてくる。音楽が「ゼロから生まれる」のではなく「過去を受け継ぎ変容していく」ものであることを、視覚的に突きつけられる展示だった。

さらに目を惹いたのは、廃棄される予定だったシンバルを溶かし、加工して作られた作品。“音のカケラ”と名付けられたその小さな作品は、打楽器としての役目を終えた金属が、再び手の中で生き続ける姿を象徴していた。ライブで叩かれ響いた記憶を抱えたまま、形を変え、日常に寄り添う存在になる。音楽が一瞬で消え去る儚いものだとすれば、この“音のカケラ”は、その記憶を物質として留める試みだったのかもしれない。

音は形のないもの目には見えない

だからこそ美しい

と思いつつ

それを少しだけ超える方法はないか、とも考えました。

“美しい音”はついに空白とひとつになってしまった。

しかしだからこそ今

本来の姿を隠すことなく自由に現しカタチを得た“音”がそこにあるのです。

「音のカケラ」

音楽のリハーサルスタジオで高頻度で使用され過負荷により割れてしまうことで本来の

“美しい音”ではなくなり捨てられてしまう。

そんな廃シンバルを再利用し、アートピースを製作しました。

 maot

物販コーナーも、単なる販売ブース以上の意味を持っていた様に思える。EPのカセットテープは、デジタル配信が当たり前となった時代に、あえてアナログなフォーマットを選んだことが象徴的だった。

展示スペース全体は、単なる“過去の作品の並列”ではなく、彼自身の歴史を紐解く場でもあった。楽曲、アートワーク、グッズ、そのすべてが一つの線でつながっており、観る者は自然と彼の活動を振り返りながら歩みを進めることになる。

彼の音楽がどこから来て、どのように形作られてきたのかを理解したうえで臨むライブは、単なるパフォーマンスの連続ではなく、歴史の延長線に立ち会う体験へと変わる。

展示会を見ている時間、会場にいることを一瞬忘れるような感覚に襲われた。普段のライブハウスに漂う熱気や音圧の代わりに、静かに作品と向き合う空気が流れていた。ファンは一枚一枚の作品をじっくり見つめ、手に取れるものは大切そうに扱い、写真に収めていた。そこには「今からライブを楽しむぞ」という昂揚感とはまた別の、落ち着いた鑑賞の時間があった。展示を経てから「ライブが始まる」という実感が追いついてくる。

この展示空間は、maotというアーティストの音楽を理解するための鍵であり、扉だった。単なる付属の企画ではなく、ライブの一部として機能していた。彼の歩みを追体験することで、これから聴く楽曲がより鮮やかに響き、より深く刺さる。展示会と物販スペースは、音楽をただ消費するのではなく、作品世界に浸る入口を与えてくれる場所だったのだ。

maotの繰り出す甘美なyellow trip

「maot」の歴史を追体験し、フロアに立ち尽くした瞬間、耳に飛び込んできたのは、整うことを拒むかのように散らばった断片的な音たちだった。まるでステージ上で音そのものが迷子になっているようで、ひとつひとつが自らの居場所を探してさまよっていた。

しかし、その不安定な漂流はやがて規則性を帯び、ゆっくりと整列をはじめる。乱反射する粒子が一つの光を形作るように、ドラムのリズムとともに音像が立ち上がりフロア全体を包み込んだ。幕開けの1曲『時のビート』は、maotの音楽世界の縮図のようだった。混沌の中から秩序が生まれる瞬間。その始まりを体感するだけで、観客は彼の世界に引き込まれていた。

続く2曲目『High On You』は、さらに鮮やかな色彩を纏った。ここでシンガー の歌声が重なると、整列した音の群れが一気に柔らかな広がりを持つ。彼女の声は浸透力を持ち、耳に届くよりも先に心の奥へと染み込んでいくようだった。maotのドラムが刻むビートの上で、麗のクリアで端正なボーカルが踊り出しサウンドの輪郭を際立たせていった。

3曲目『Spring Fever (feat. 麗)』では再び麗の声が徐々に立ち上がる。その歌声は光沢を帯びた糸のように、暗がりに張り巡らされたサウンドの網目を縫っていく。艶やかでありながら決して濁らず、怪しさを抱えたトラックをかえって美しく繊細に引き立てていた。

『ひゞき』『うねり』では、彼の持つリズムセンスがさらに鮮明になる。叩き出される音は直線的ではなく、どこか有機的で呼吸をしているようだ。伝統楽器が血流を持つかのように、フロアに波を広げる。観客は音の流れに身体を委ねながら、次に訪れる展開を待ち望んでいた。

そして6曲目から8曲目にかけて、空気が一気に熱を帯びる。ここで登場したのがラッパーBattahshit。テクニカルなライムが矢継ぎ早に放たれ、ドラムの隙間を縫うようにフロウが重なっていく。フロアに投げ込まれる言葉は鋭くも流麗で、ひとつひとつがリズムの延長線上に正確に配置されていた。

まるでビートそのものがBattahshitの声を待ち望んでいたかのように、maotのドラムと一体化していった。彼のラップが添えられることで、ドラムビートはより多彩に彩られ、会場の熱量は跳ね上がっていく。

『Tounge Funk』『Laundry Note』では、Battahshitが自らの楽曲を披露する。クラシカルでありながら芯の通ったビートに、彼はシンプルに、だが的確に言葉を落としていく。余計な装飾を廃し、フロウの純度を際立たせたパフォーマンスは、ヒップホップの本質そのものを突きつけるようだった。

そしていよいよ11曲目からは、観客が待ち望んでいた『yellow trip-EP』の楽曲群が披露されていく。

『情けの花』ではメロディアスな展開の中に潜む切なさが、ドラムのリズムに乗ってフロア全体を包み込む。

『voodoo tempo』では呪術的とも言える反復が生み出す高揚感が爆発し、観客をトランス状態に誘う。

『Ovation』ではその名の通り、喝采を浴びる瞬間を凝縮したような煌めきが鳴り響き、会場をひとつの渦へと変えていく。そして『STONE』では、重厚でありながら突き抜けるようなビートが最後の決定打となり、EPの持つ世界観を余すところなく提示した。EPをたどることで、観客はまるで旅をしているかのように感情の振れ幅を体験し、その濃密さに息を呑んだ。

クライマックスを経てもなお、ステージは終わらない。15曲目と16曲目では、まだ音源化されていない新曲が披露された。デモ段階の荒削りさを残しつつも、既に完成された世界観を持つ楽曲は、未来への予告編のように響いた。これまで積み上げられてきた歴史と、これから描かれる道筋。その両方を同時に体感させることで、ライブはひとつの大きな物語を描ききったのだ。

観客は未知の音を浴びながら、maotの音楽がまだ進化の途中であることを確信しただろう。

こうして16曲にわたる旅は幕を閉じた。展示スペースで彼の歩みを辿り、ライブでその進化を体感し、最後に未来の断片を受け取る。maotというアーティストの現在地と、その先を示すような一夜。

ステージ上の彼は、ただのドラマーでも、ただのビートメイカーでもなかった。音を作品として昇華し、歴史をつなぎ未来を描く一人の表現者と言えるだろう。

イエローとは きちがいの色である

イエローとは

宇宙の空間から出る七光線の光でもある

イエローとは 美しいケシの花でもある

イエローとは 美しい音の集団である

われわれは物質慾・闘争慾などが入りまじって日々を暮らしている、

そのような状態と環境で良い芸術・美しい物は生まれてこないことに気がつき

空の状態(STONE)でいるように心がけた

Yellow / Yellow

London Records – SKD(L)-1026

インサートより一部抜粋

photo by @masakihayashi1996

<セットリスト>

1.時のビート

2.High On You Feat 麗

3.Spring Fever Feat 麗

4.ひゞき

5.うねり

6.路 Feat Battahshit

7.Tunnel Feat Battahshit

8.Forth & Back Feat Battahshit

9.Tounge Funk (Battahshit’s song)

10.Laundry Note (Battahshit’s song)

11.情けの花

12.voodoo tempo

13.Ovation

14.STONE

15.新曲(未発表)

16.新曲(未発表)

リリース情報

yellow trip – EP

収録曲

1.voodoo tempo

2.情けの花

3.Ovation 

4.STONE

5.voodoo tempo(Live Recording Session ver)

6.Ovation(Live Recording Session ver)

tuneCORE:https://www.tunecore.co.jp/artist/maot

各種リンク

YouTube:https://youtube.com/@maot_keepthebeat

Instagram:http://instagram.com/_maot_

bandcamp:https://maot.bandcamp.com

tuneCORE:https://www.tunecore.co.jp/artist/maot

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