“音楽と人を繋ぐイベント”というコンセプトのもと2024年10月から始まった「UP BEAT MUSIC」
2025年6月14日(土)に下北沢の2会場「おてまえ」と「近道」にて開催された「UPBEAT MUSIC FES Supported by DigOut 」は、次世代を担うアーティストたちが、それぞれの“今”を鳴らし、弾き語りの静けさも、バンドの爆発力も、どちらも堪能できる観客の心を熱くした贅沢な日となった。
この記事では、そんな「おてまえ」で行われた素敵な一瞬の数々を、その場にいた人の記憶と、これからUP BEAT MUSICに出会う音楽ファンのために記し、届ける。
詩を綴るように音を紡いだ おもかげ「ひぐまかんた」
1曲目『はじまり』が鳴った瞬間、ざわめきはそっと引き、観客の心は静かに、そして確かに彼の世界へと手を伸ばした。
ギターの柔らかな響きに乗せて放たれた歌声は、まるで遠くの空から静かに降る雨のよう。言葉は音に溶けて情景となり、今という一瞬をまるごと包み込んでいく。
彼の紡ぐ詩には、説明も説教もない。ただ、どこか懐かしく、誰かの心の奥にひっそりと仕舞われていた風景がそっと撫でられるようだった。
4曲目には『ラベンダー』を披露。誰かのことを歌っているようで、きっと自分のことでもある。そんな不思議な親密さが、会場に切なくも優しく満ちていった。
「おてまえ」という会場が持つ温もりと、ぽつりぽつりと灯る暖色の照明が、彼の言葉に輪郭を与え、歌の中に差し込む光と影を際立たせていた。
5曲目には新曲の『たりないもの』を披露してくれた。ギターの音に「ひぐまかんた」の声が重なるたび、観客はまるで小説のページをめくるように、そっと耳を傾ける。
真っ直ぐに届く声と、削ぎ落とされた言葉の強さ。その静けさが、何よりも雄弁に感じ、開幕にふさわしい詩の時間となった。
ひぐまかんたの弾き語りは、まるで物語のプロローグのように、静かで美しかった。
ひぐまかんた公式 X:https://x.com/higuma_kanta
おもかげ 公式 X:https://x.com/omokage_band
柔らかく射す光のような声で包んでくれた「マキノアンジュ」
温かな照明と木の香りが漂うこの会場で、午後の柔らかな時間を引き継いだのは「マキノアンジュ」
2025年6月1日、惜しまれつつ解散したバンド「umitachi」のボーカルとして知られる彼女がこの日、一人の歌い手としてステージに立った。
1曲目に披露した『Heart』では、陽の光を纏ったかのようなマキノアンジュの歌声が、海の上を走る風のように身体を優しく撫でた。
優しく、決して尖らずに響いた彼女の声は「おてまえ」を、暖かく優しい空間に仕上げてくれた。
2曲目には『わたしはわたし』を披露。
「今日だけはメロディのない世界で息をしてたい」と優しく歌う彼女の歌声が、心の隙間にそっと寄り添うようだった。
アットホームな「おてまえ」という箱と、観客の柔らかく静かな集中。その中心に、まっすぐに立つマキノアンジュ。弾き語りというシンプルな形が、彼女の魅力を一層引き立てた。
「次は楽しい曲でもやろうかな!自分の人生に恋するぐらい自分を愛してあげようよって曲です!」といい『恋をしようよ』を披露。
未来に少なからず不安を滲ませながらも、どこか凛とした眼差しで歌う姿は、まるで海に反射する柔らかい光のようだった。
マキノアンジュ公式 X:https://x.com/an_umitachi
音を楽しむ幸福を思い出せたプルスタンス「小林カナ」
夕暮れが近づく時間帯に登場したのは、プルスタンスのボーカル「小林カナ」
笑顔でステージに現れ、その笑顔のまま最後の一音まで駆け抜けた。
開口一番の挨拶から、どこか親しみを感じさせる空気感。けれど、ひとたびギターを鳴らせば、そこには確かな技術と、表現者としての姿があった。
1曲目に『最上級バカンス』を披露。上手いだけじゃなく、楽しさが伝わる歌だった。その時間を、ただ一人で完結させるのではなく、目の前の観客と共に作っていた。
“音を楽しむ”その言葉をそのまま体現するような、心から自由で朗らかなひと時に、会場にいた誰もが堅苦しさから解き放たれ、笑顔になっていた。
小林カナのステージには、音楽の本質が詰まっていた。手拍子が自然と生まれ、息を呑む瞬間があり、そしてまた微笑みが交わされる。
弾き語りというシンプルなスタイルだからこそ、ダイレクトに届く空気がくっきりと浮かび上がった。観客を巻き込みながら音の中で共に遊ぶ小林カナ。
会場に残ったのは、心の底から思える楽しかったという気持ち。そして、それにそっと添うような、優しさと温もり。
小林カナのライブは、まさにそのすべてを音楽にしていたように感じた。
小林カナ 公式 X:https://x.com/kobakana_0917
プルスタンス公式サイト:https://pulstans.bitfan.id/
等身大のメッセージを届けたMOCKEN「永野」
続いて登場したのはMOCKENのボーカル「永野」
普段はバンドで観客を巻き込み、エネルギーを爆発させる彼だが、この日はアコースティックギター1本で立ち、また違った形で我々にエネルギーを届けてくれた。
1曲目に『まほろば』を披露。弾き語りという形で放たれる彼の歌は、激しさを内包しつつも、どこか柔らかく、聴く人の心に静かに触れるような優しさがあった。
バンドでは爆発するような力強さで背中を押してくれる永野だが、ここではそっと手を差し伸べるような、ささやかな勇気を手渡してくれた。
「俺のライブは録音、撮影、ダイブ、モッシュ、発狂、ダンス、泥酔、なんでもOKです!好きに楽しんでください!でも弾き語りで泥酔はいないか(笑)」と笑いを誘いつつ、自身のステージに対するスタンスを語る姿は、等身大でありながらも情熱に満ちていた。
「緊張してるのがバレないように顔を作らないと(笑)」というひと言に、会場がふっと和み、彼の人柄が滲み出る。
そんな和やかな空気の中『かわいいひと』を披露。
彼の言葉は飾らず、まっすぐで、何ひとつ濁らない。その透明さに、聴く者は思わず彼に心を委ね、永野の心の奥を見つめる。
照明に照らされたその横顔は、どこか少年のようでもあり、けれども確かに音楽を背負う大人のまなざしを持っていた。
MOCKENとしての彼も魅力的だが、弾き語りの永野にはまた違った輝きがある。
その純粋さこそが、彼の持つ強さなのだと改めて感じさせられた。
永野 公式 X: https://x.com/mthr_126
MOCKEN 公式サイト:https://mocken-band.com/
優しさと肯定を含んだロックを見せたmemetoour「西沢成悟」
続いて登場したのはmemetoourの「西沢成悟」
ひとたびギターを鳴らせば、彼の熱いロックンロールがまっすぐ胸に響いた。その歌には、傷をなぞるような優しさと、心の奥を燃やすような情熱が同居していた。
西沢成悟の楽曲はどこまでも肯定的で、頑張れとは言わずに“そのままでいい”と語りかける。けれど、そこに宿る音楽への熱量は非常に高く、1曲に込める想いがひしひしと伝わってくる。
柔らかさだけでは終わらない、しっかりとした芯がある歌だ。
最後に披露された『ブルースドライバー』では、途中で弦が切れるアクシデントがあったが、彼は動じることなく最後まで熱く、力強いロックンロールを鳴らし続けた。その姿は観客の心を強く打ち、会場全体を一つにした。
西沢成悟の音楽は、優しさと情熱が重なり合う、魂のブルースロックだ。
辛い時、苦しい時、その感情を消してくれるわけではない。ただ、“それでもいい”と言ってくれる。彼の歌声からは、そんなメッセージが確かに聞こえてきた。
がむしゃらだけが正義じゃない。立ち止まることにも意味がある。そんな風に、自分を肯定してもらえるようなひとときだった。
西沢成悟 公式X:https://x.com/seigo2438
memetoour 公式 サイト:https://www.memetaaa.net/
自由と愛のブルースが突き刺るジュウ「髙浪凌」の歌
この日の「おてまえ」の最後のステージに登場したのは「ジュウ」のボーカル、髙浪凌。
鋭い視線、鋭い言葉。その歌詞には、社会や常識に抗う反骨の精神が込められているように感じた。彼がギターを爪弾き、口を開いた瞬間、その期待はいい意味で裏切られる。
彼の音楽が向かう先は、怒りや破壊ではない。伝わってきたのは、愛や自由を求める強くて優しい想いだった。それでいてどこか人懐っこい温度感を持ち、耳に触れた瞬間、忘れられなくなる。あの声は今でも耳の奥に残っている。
しゃがれた歌声に、ほんのりと香るカントリーの風合い。土の香りがするような渋い響き。それがギターのリズムと溶け合い、まるで一本の古い映画を観ているような、深い余韻を残していく。
パンクスとしての鋭さや反骨の姿勢は確かにある。けれどその芯には、圧倒的な優しさと、大きな愛が静かに、でも力強く息づいていた。
無邪気で、真っ直ぐで、音楽に対してとびきり純粋な愛を抱いているのがわかる。音楽が彼の生き方であり、支えであり、愛そのもの。
それを飾ることなくまっすぐに届けてくれた髙浪凌のトリは、観客の心にしっかりと火を灯し、深く、熱く夜を締めくくってくれた。
バンド「ジュウ」としてのライブでは、また違う熱を見せてくれるに違いない。髙浪凌の全貌が気になる、そんな夜となった。
髙浪凌 公式 X:https://x.com/xtaka73x
ジュウ 公式 Xhttps://x.com/jyu_band?