ミュージシャン・にしなが、3rdフルアルバム『日々散漫』を完成させた。2枚組21曲から構成される、前作から約3年半の間のドキュメント。しかしその耳触りは滑らかで、日常のサウンドトラックとして、あらゆる生活に寄り添う親密さも併せ持っている。
彩り豊かな音の響きも、場面によって温度を変える言葉選びも、何にも縛られていなくてとにかく自然体かつ自由だ。その「散漫さ」はむしろ、にしなという人間の芯にある強さを浮かび上がらせているように感じる。今回、リリースを控える彼女に話を聞いた。
文:サイトウマサヒロ
『日々散漫』に刻まれた身軽で自然な姿
ーーおよそ3年半ぶりのニューアルバムが完成しました。現在、どんな手応えを感じていますか?
手応えという手応えはそんなになくて……これまでも今回も、「アルバムを作るぞ!」みたいな感じではやってなくて、気付いたら曲が溜まっていてアルバムになるという感覚でした。こういうインタビューで話して初めて「そんなに時間が流れたんだな」って気付いたっていうのが正直なところです。
ーー収録曲の中で最も古いリリースが2022年11月の『ホットミルク』ですから、一枚の中で異なるモードの楽曲がパッケージされてるんじゃないかなと。
どうなんだろう。確かに聴き返してみると「こんな感じで作ってたなあ」って思うし、またこういうアプローチもやってみたいなって感じます。この三年間で曲に対する考え方や角度も増えていったし、自分にとっても振り返れるタイミングができて良かったです。その時々の書きたいこと、やりたいことの記録が重なってアルバムになったっていう感覚が強いです。
ーーその積み重ねに『日々散漫』っていうタイトルを付けたのが、すごく良いなと思うんです。
21曲を1枚にまとめるのがすごく難しいなと思っていたんですけど、楽曲を聴いていく中で二つの軸が見えてきて。一つが日常的な側面を描いた楽曲で、もう一つがちょっと混沌としているというか、とっ散らかった空気感の楽曲。これをガッチャンコしてみるかっていうことで、自然に日々散漫っていうフレーズが思いつきました。
ーーだから『日々』と『散漫』の2枚組になっているんですね。『日々』の曲と『散漫』の曲は、それぞれ違うルートで生まれるんですか?
違うかもしれないです。どっちかというと、『日々』は言葉から生まれることが多くて、『散漫』はメロに引っ張られていく感じなのかも。
ーーその両方があってこそのにしなさん、というか。
飽き性なので、同じアプローチだけで曲を作っていくと、自分自身が楽しくなくなっていくんです(笑)。
ーー収録曲の歌詞からも、ブレや自由さを大切にしていることが伝わってきます。たとえば『婀娜婀娜』の<歪みが芸術になる>だったり、『音になっていくよ』の<ルールは無しで気ままにdoing><時に不安定にズレるピッチも/2人だけのほら/音になっていくよ>だったり。
いっぱい曲を書く以上、数年前の曲と今の曲で言ってることに全然筋が通ってないって言われる可能性だってあるけど、その時に心から思っていることを曲にするっていうのが自分にとっては一番素直な行為だし、そもそも変わっていくことこそが生きるっていうことだと思います。一貫性にとらわれすぎると自分が息苦しくなっていくし、良い意味で深く考えすぎずラフにトライする姿勢は自分が音楽を楽しむために重要だなって。
ーー変化をポジティブに捉えられるようになったのは、何かきっかけが?
いや、特にこれっていう出来事はないんですけど……以前はもっと歌詞で悩むことが多くて、でもどこかのタイミングで「どうせこれから先も書き続けていくんだから、この曲は一旦これでいいんじゃないかな」って思えるようになってから、曲に対する向き合い方をよりラフにできるようになったような気がします。元々は「もっと推敲します」っていうことが多くて。今も考えすぎちゃう面はあるんですけど、前よりは気楽にやれてます。
ーーソングライターとして身に付いた自信がそうさせてるのかもしれませんね。
そんな、全然。世の中には他にもたくさんの音楽があるし、時代の流れも早いし、やっぱりミュージシャンとしてお金をいただいてそれでご飯を食べるには、止まりすぎていたらいけないのかなって。もちろん止まる瞬間も必要だし、マイペースであるべきだけど、「一旦投げてみるか」っていうのも大切なのかなって、活動しながら思ったのかなと。
ーー歌詞はもちろんですが、にしなさんの楽曲はサウンドのアプローチも多彩で、これもある種、魅力的な「散漫さ」だと感じます。
自分の大雑把さが良い形で出てるのかなって。一番最初に音楽を好きになった理由を遡ると、やっぱり「歌うことが好き」だし「言葉とメロディが好き」だったから、アレンジにはそこまで深くのめり込まないっていうか。アレンジャーさんと一緒に、他人の意見を汲んで柔軟に制作することができるから、色んな角度の曲を作れてるんじゃないかなと思ったりします。
ーーあくまで弾き語りから生まれるような歌と歌詞に芯があるから、その肉付けでどんなことを試しても構わないと。
そうですね。もちろん自分のイメージと合わないこともありますけど、そこに対して頑固ではない。他人から勧められたことにも全然チャレンジしたいし、先入観を持たずに取り組めるっていう感じですね。自分らしさのあるサウンドに憧れはするんですけど、やっぱり難しいことを考えて突き詰めるのが苦手なんですよ。どっちかっていうと感覚タイプで、だからこそ私は歌を歌ったんだと思うんです。歌って、鼻歌で作れるじゃないですか。「自分の音楽はコレだ!」みたいになると自分が苦しくなるから良くないなって、今は思います。この考えも変わるかもしれないけど、今は歌っていう部分をもっと楽しみたい。
ーー『日々散漫』を聴いていると、この3年半の間でよりサウンドがカラフルになったのを感じます。曲作りのプロセスやアレンジャーとのやりとりに関して、新しく変わったことはありますか?
そんなにはないですね。でも、どのアレンジャーさんとも制作の回数を重ねてきたので、信頼感やお互いの理解はより深まってきました。『婀娜婀娜』は私がアフロビートをやりたいっていうのをYaffleさんに伝えて作った曲です。新しいジャンルを聴くようになったから起きたそういう変化もあるんですけど、最近は改めて弾き語りって素敵だなって気持ちが大きくなってきていて、自分の軸はずっと変わらずにそこにあるなって感じています。
ーーその時の気分を自分でキャッチして作品に反映できる状態は健全ですね。
そうですね。やっぱり身軽さがすごく大切なんだなって思いますし。音楽もだし、生きる上でも。
ーーPARKGOLFさんによる『今日も今日とて』のリミックスなんかは、その身軽な遊び心の象徴みたいな仕上がりですよね。
PARKGOLFさんはずっと仲良くさせていただいている先輩で、リミックスをお願いしたら面白くなるんじゃないかと思ってお声がけさせてもらいました。
個人的な歌が伝播していけばいい
ーーいくつか、気になる収録曲についても訊かせてください。先ほども触れましたが、『婀娜婀娜』がすごく好きで。どういったイメージで作られた楽曲なのでしょうか?
Yaffleさんが暗いものとちょっと明るいものの2パターン分トラックを作ってくださって、一緒に作業をしながら明るい方を選びました。アフロビートで踊れる曲にしたいっていうイメージが強くあったので、サビでは乗りやすさを意識して言葉をはめて、その代わりにサビ以外の部分ではちゃんと言葉を言えたら良いなと考えてましたね。
ーー細かい話なんですけれど、<時に人知れず>から始まる2コーラス目のAメロでの、レイドバックしたにしなさんの歌唱がめちゃくちゃ上手いなと思って。
そこのセクションに入るところで一旦流れが途切れるじゃないですか。だからそこで違和感を生むことができたらいいなっていう狙いはありました。
ーーラップ的アプローチは『婀娜婀娜』に限らずアルバム全体で精度を増しているように感じました。GeG『EDEN feat. にしな, 唾奇』や唾奇『水仙 feat. にしな Prod. by GeG)』への参加を経てインストールされたHIPHOPのエッセンスが影響しているのかなとも思ったのですが。
一緒にお仕事をさせてもらって得る影響はもちろんあるし、そもそもGeGさんや唾奇さんと曲をやる流れになったのも昔から私が歌モノとラップが混ざった曲が好きだったからなので、自然にそうなってるんだと思います。意識はしてないけど受けている影響はたくさんあるのかもしれません。音の乗せ方もそうだけど、曲への向き合い方や自分の見せ方でも、共感することや、リスペクトを持って取り入れていきたい部分は沢山あります。
ーー他のアーティストとの共演という意味では、藤井風さんの『tiny desk concerts JAPAN』にコーラスで参加したことも大きな出来事でしたよね。自分の歌声に対する認識の変化は起こりましたか?
そもそも歌声はずっと探求していくものだなって昔から思ってます。マイクやイヤモニといった機材との相性もそうだし、誰かにプロデュースしていただいたらその人によって声の使い方も全然変わるなって。たとえば川谷さん(川谷絵音、indigo la End『夜凪 feat. にしな』で共演)が作ったメロを歌った時に、「こういう声は自分の曲では出ないけど他人が作った曲だと出せるな」みたいな。色んな曲や人と関わる中で永遠に探求が続くから、難しいけど楽しいなっていつも感じてます。
ーーいま、自分の声ってどんな声ですかって訊かれたら、どう答えます?
その時のメンタルが出る声っていうか。考えすぎると喉が閉まった音が鳴るし、会話をするような気分で歌ったら話し声みたいな声が出るし、何も考えていない時が一番良く響く気がする。だから、素直な声って答えるかもしれない。
ーーdisc 1でもう一曲気になるのが『音になっていくよ』で。個人的には、アルバム全体のテーマの根幹を成すような曲だと感じました。どのように制作されたのでしょうか?
永澤さん(永澤和真、『音になっていくよ』編曲およびにしなとの共同作曲を担当)とはこれで3曲目になるんですけど、今回は何もない状態から作ってみようっていう話になって、一緒にスタジオで最近聴いている曲を紹介した後に制作を始めました。そのトラックに言葉を乗せた時に、冒頭の<点と線、/まるで僕らは/夜を泳ぐメロとリズム>っていうフレーズがスッと出てきて、そこに層を重ねていきました。
ーーこの曲を聴いて、『日々散漫』という作品に一本の筋が通っていくのを感じたんですよね。『散漫』であることが、『日々』のレベルに落とし込まれてくるというか。
確かに。実際の日々の中で、好きな人だったり、友人だったり、家族だったり、みんなとのコミュケーションの中で生まれる言葉が音楽になっていて、そこにルールはないから好きにやろうよって。その上で一緒にいられたら嬉しいなっていう気持ちを歌っている気がします。
ーーそして、disc 2に収録されているリード曲の『グローリー』は、まっすぐに綴られた平和への祈りが胸に突き刺さりました。どういった思いから生まれた曲なのでしょうか?
多分、弾き語りで作った曲なんですけど、大きなきっかけがあったわけではなく……日常の中で生まれたからこそ、実はあんまり作った時のことは覚えてなくて。
ーーちなみに、いつ頃完成した曲ですか?
弾き語りの状態のパーツは数年前からあって、アルバムを制作するタイミングでちゃんと形になりました。社会や世界に対して書いているように聴こえるけど、自分自身のことを書いた曲だと私は思っていて。複雑な時代で、何が本当かわからないことがたくさんあるじゃないですか。それに対して知識のない自分が何かを語るのはすごく難しいんですけど、穏やかに好きな人たちと生きていたいなっていうシンプルな気持ちは、私だけじゃなく身近な人もどこか遠くの人も同じように感じていることだろうなって。音楽を作る上で良いことって、いつの間にか他の人も歌ってくれるかもしれないってことだと思うんです。その歌に意味があるかどうかはそんなに重要じゃなくて。私が大きな声で歌った歌が伝播していったらハッピーだし、それがみんなの幸せを歌った歌だったら一番良いなっていう、軽やかな気持ちで作りました。
ーー今を生きるアーティストとして、この分断の時代にどう向き合っているのかを聞きたいと思っていたのですが、今のお話が一つの答えなのかもしれないですね。その時代にいる個人としての思いをつぶさに歌っていくという。
そうですね。私も歳を重ねて、小さい頃よりは見える範囲が広がってきて、その中でも、自分の手が届く範囲の人をちゃんと幸せにしていきたいと思ってます。だし、音楽が仕事になったからには自分のことをちゃんと歌って、それを聴いた人が一人でも「良いな」って思ってくれたりしたらそれだけで良いし、それが巡り巡って誰かまで届いたらもっと良いなっていう気持ちです。
ーーその思いはラストの『Twinkle Little Star』に繋がっていきます。6分超の曲で歌詞のスケールも大きいけれど、仕上がり自体は素朴な弾き語りですよね。なぜこの形に落ち着いたんだろうっていうのが気になってて。
アルバムの中で最後に出来た曲っていうのもあって、一番今の自分らしいと思える曲だから、これを飾りつける必要はないんじゃないかって。レコーディングでも、音楽を始めた時からずっとお世話になっている人にギターを弾いてもらって、スタッフさんの自宅で窓を開けて録って。その時間をギュッと詰め込みたいなということで、弾き語りという形になりました。
変化していく自分をちゃんと残しながら生きたい
ーーさて、アルバムという形式に親しみのないリスナーも、そもそもアルバムを作らないアーティストも増えている中でリリースされるボリューム満点の『日々散漫』ですが、この作品をどんな風に聴いてもらいたいと思いますか?
曲数もたっぷりで、曲の雰囲気も色々なので、日常の中でその日のモードに合う一曲がどこかにあるんじゃないかと思います。長く、ささやかに、色んな人の日々に流れるアルバムになったら嬉しいですね。
ーーこの3年半の間、色んなタイアップや共演を経て新たなリスナーも獲得したと思いますし、アルバムも完成して、またここから新たなフェーズが始まっていく段階にあるんじゃないかと。ご自身では、これからどこに向かっていこうと考えていますか?
うーん、向かう場所……「これです」って言えたらいいんですけど、難しい。数字で見える部分も含めて、これからも上がったり下がったりするだろうけど、軽やかに、変化していく自分をちゃんと残しながら生きていきたいって思います。だから、「みんな、ここに向かうからついてこい!」っていうのはなくて、聴いてくれる方々とともに生きていきたいし、変わっていきたいです。
ーーその心境は、『odds and ends』『1999』の頃とは変わってる?
どうなりたいかっていうのは、昔から考えたことないのかもしれない。でも、どう生きたいかがハッキリしてきた感じはすごくあって。何もわからない世界に飛び込んでガムシャラに続ける中で、歩き方がだんだんわかってきたし、その中で何を大切にしたいか、どうしたら呼吸がしやすいかっていうのは掴めてきた気がします。いつだって、良い歌を残せたらそれが私にとって一番嬉しいことだし、だからこそチャレンジはやめたくない。すべきことはそれしかないって思います。
ーー3月から6月にかけては、ツアー『日々散漫』が開催されます。約3ヶ月とじっくり時間をかけて全国10ヶ所を巡りますが、どんなことを楽しみにしていますか?
こんなに新しい曲を持って挑めるツアーは久しぶりなので、自分自身でもどうなるんだろうってドキドキしてます。新しい側面をたくさん見せながら、会場に来てくれたみなさんと、曲をさらに成長させられるような時間にできたらなと思います。楽しくやりたいです。
ーー特にライブで歌うのが楽しみな曲は?
『パンダガール』もまだワンマンライブではやってないし、『Twinkle Little Star』は音源では弾き語りだからライブだとどうなるかとか、『婀娜婀娜』のレコーディングでは歌い分けてる部分や『音になっていくよ』のボーカルにエフェクトがかかってるところをどう表現するかとか、予想がつかないことがたくさんあるので楽しみです。
ーーでは最後に、リスナーのみなさんにメッセージをお願いします。
とにかくアルバムを聴いていただけたら嬉しいですし、作ったからには一緒に歌えるのが一番幸せなので、気に入ってもらえたら気軽にライブに遊びに来てほしいです。私はそこにいるので。会えたら嬉しいです。
■衣装
ワンピース¥10,627、シャツ¥13,043/MILLO WOMEN(HANA SHOWROOM hana.showroom@hana-korea.com) リング¥4,730/NFF(HANA KOREA support@hana-korea.com) その他スタイリスト私物
Styling: hao
Hair&Makeup: Eriko Yamaguchi
告知
にしな ツアー2026「日々散漫」
<日程>
3⽉29⽇(⽇)Zepp Fukuoka OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉4⽇(⼟)Zepp NambaOSAKA) OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉5⽇(⽇)Zepp Nagoya OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉12⽇(⽇)Zepp Sapporo OPEN 17:00 / START 18:00
4⽉18⽇(⼟)Zepp DiverCityTOKYO) OPEN 17:00 / START 18:00
5月14日(土)Spotify O-EAST OPEN 18:00 :/ START 19:00
5⽉23⽇(⼟)仙台Rensa OPEN 17:00 / START 18:00
5⽉30⽇(⼟)岡⼭CRAZYMAMA KINGDOM OPEN 17:00 / START 18:00
6⽉6⽇(⼟)⾦沢RED SUN OPEN 17:00 / START 18:00
6⽉13⽇(⼟)⾼松オリーブホール OPEN 17:00 / START 18:00
6⽉20⽇⼟)熊本 B.9 V1 OPEN 17:00 / START 18:00
<チケット>
スタンディング:¥5,500税込・ドリンク代別)
イープラス:https://eplus.jp/nishina2026/
ぴあ:https://w.pia.jp/t/nishina/
ローチケ:https://l-tike.com/nishina
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